20世紀前半のニューヨークで貧しい移民を支えたカトリック尼僧らの理想と現実を描く小説 The Ninth Hour

作者:Alice McDermott(全米図書賞受賞作家、ピューリッツァー賞最終候補作家)
ハードカバー: 240ページ
出版社: Farrar Straus & Giroux
ISBN-10: 0374280142
発売日: 2017/9/19
適正年齢:PG15
難易度:上級
ジャンル:文芸小説
キーワード:20世紀前半のニューヨーク、カトリック系移民コミュニティ、尼僧(シスター)、聖書、the ninth hour


20世紀前半のニューヨーク、ブルックリンでは、多くの移民が集まっていた。そして、その多くはアイルランド系の貧しいカトリック信者だった。

そのひとりで、人生に見切りをつけた若い男性がガス自殺をした。火事で住めなくなった部屋に残されたのは、妊娠中の若い未亡人だった。この地域で病人や老人、貧しい家族の世話をしてきた年老いたシスターSt. Saviorは、未亡人を尼僧の修道院に引き取ることにする。

修道院でシスターたちに囲まれて育ったSallyは、自分も尼僧になるつもりでいたが、ある出来事をきっかけに人生の方向を変える決意をした。

ニューヨーク移民をテーマにした小説は数多いし、カトリック信者に関する小説も多い。だが、登場するのはたいていカトリックの神父だ。
尼僧が登場しても、ステレオタイプなことが多い。

だが、Alice McDermottのThe Ninth Hourに登場するシスターたちは、それぞれ個性があり、とても人間的だ。敬虔な信者でありながらも、現実から目をそむけない。
カトリック信者にとって、自殺は深い罪である。自殺の場合には、教会の墓に入ることはできないのだが、St. Saviorは、自殺した男を墓に入れるよう策略する。多くの神父が規則を重んじて、貧しい人々を見捨てているのをよく知っているシスターたちは、がんじがらめの規則を無視して、「人」を救うことを選んでいるのだ。

タイトルのThe Ninth Hourは、キリスト教の聖書に登場するもので、第9刻(午後3時ごろ)にキリストが大声で「My God, my God, why have you forsaken me?(わが神よ、わが神よ、なぜ私をお見捨てになったのですか?)」と叫んだというところから来ている。

質素な修道院の地下室、ニューヨークからシカゴに向かう汽車、病床、茶の間で起こる日常のなかに、愛と倫理の葛藤がある。尽くしても、尽くしても、この世界を変えることができないことを悟っているシスターたちは、ときに第9刻のキリストのように感じるのだろう。それでも、歩き疲れて腫れ上がった足で、彼女たちは貧しい人々の戸を叩く。

「生きる」ということに慈しみを感じる味わい深い小説だ。

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