シリコンバレー発。企業を成長させる最良のマネジメントは「徹底した率直さ」 Radical Candor

著者:Kim Scott
ハードカバー: 272ページ
出版社: Macmillan
ISBN-10: 1509845356
発売日: 2017/3/23
適正年齢:PG(問題は何もないが、内容は就職を考える大学生から大人向け)
難易度:中級+〜(小説よりもは日本人にとって理解しやすい)
ジャンル:ビジネス書(マネジメント)
キーワード:radical candor, candor, management, corporate culture, Apple, Google, Silicon valley, IT, relationship

アメリカの、とくにIT業界では、「企業文化(Corporate culture)」という言葉が目につく。だが、メディアで取り上げられるのが、社内フィットネスセンター、無料グルメ・ランチ、無料ヨガ教室といったものなので、ただの浅はかな流行のような印象を与えがちだ。

ボストンで最も成長しているIT企業として知られているHubSpot(ハブスポット)のCEOブライアン・ハリガンも、会社を立ち上げて最初の数年はそんなイメージを持っていたようだ。だから、「企業文化」が話題になるたびに「企業文化の話なんかやめてくれ」と思っていたという。

だが、ロボット掃除機「ルンバ」で有名なボストンのiRobot社の社長と、自分の会社の社員から「企業文化」について学び、ブライアンは考え方を変えた。そして、ブライアンとハブスポットにとって「企業文化」は非常に重要なものになった。

その影響もあるのだろう。ブライアンは、glassdoorの「社員が評価する最良のCEO」という調査で、スペースXのイーロン・マスクとフェイスブックのマーク・ザッカーバーグに挟まれて2017年に全米で9位に選ばれた。

2016年に「ほぼ日」を訪問したブライアン・ハリガンは、「企業文化」についてこう説明した

多くの会社はユニークな商品をつくって、
そのいい商品で人材を集めようとしている。
でも、その商品をつくるのは、社員なんです。
多くの会社は、商品にばかり注意を払って、
よい社員を育てることに力を入れていない。
ユニークなものをつくるユニークな社員、
そういう人たちを魅了する文化を
会社の中に根づかせるために、
私たちは非常に努力していますし、
時間も労力もかけています。
つまり、企業文化で人材をひきつけているのです。

じつは、アメリカでも、1960年から80年代くらいまでは、大卒のエリートにとって、「大企業就職」と「終身雇用」が常識だった。当時は、大企業で平社員から社長まで上り詰めるのがアメリカンドリームだったのだ。

しかし、「ミレニアル世代」のアメリカの若者は違う。
大学卒業後、必ずしも大企業に就職したいとは思わない。
そして、企業への忠誠心もほとんどない。一箇所に落ち着くつもりはなく、もっといい場所があれば、迷わず転職する。

常に競合を視野に入れて成長を続けなければならないIT企業にとって、競合よりも優秀な人材を確保するのは死活問題だ。「企業文化」は、優秀な人材をひきつけるだけでなく、とどまってもらい、才能を最大限に発揮してもらうためのものなのだ。

「企業文化」の中でも特に重要なのが部下やチームを管理する「マネジメント」の要素だ。
そこにフォーカスを絞ったのが、本書『Radical Candor』である。

著者のキム・スコットは、プリンストン大学とハーバード大ビジネススクールで学んだ後、モスクワでダイヤモンド加工工場を開設したり、コソボの小児科医院を管理したりしたユニークな経歴を持つ。その後、アップルやグーグルなどシリコンバレーの代表的な企業で管理職を体験し、起業して失敗も体験し、DropboxやTwitterなどのシリコンバレーのCEOの指導をするようになった。
キムは、そんな体験を活かしてマネジメントのコーチングをする会社Candor, Inc.を創業した。

著者がこの「Radical Candor」というマネジメント・スタイルについて考えるようになったきっかけは、グーグルに勤務した直後にシェリル・サンドバーグから与えられた非常にダイレクトな意見だった。

社内プレゼンテーションでボスたちに良い印象を与えたと自負していたキムに、シェリルは「um(あの〜、え〜っと)とよく言うのに気付いている?」と尋ねた。
キムは「知ってる」と答えたが、内容さえ良ければそんな些細なことはどうでもいいのに、と感じた。
「緊張するから? スピーチのコーチを紹介してあげましょうか? グーグルが払うから」というシェリルの提案に、キムは「別に緊張なんかしない。ただの口癖だと思うわ」と手で振り払うようなジェスチャーをした。
「あなたの仕草は、私が言っていることを無視しようとしているみたいね」とシェリルは笑った。そして、こう言った。
「どうやら、わかってもらうためには、とても、とても単刀直入になるしかないようね。あなたは、私が知っている中でも最高に優秀なひとりだけれど、umを言い過ぎると頭が悪いみたいに聞こえるのよ」そして、「朗報は、スピーチ・コーチがumの癖を直すのを手伝ってくれるということ。私には偉大になれる人がわかる。あなたは絶対にこの癖を直せるわ」

キムはそれまで何十年も人前でスピーチをしてきたのだが、それまで誰ひとりとしてこの口癖を指摘してくれる人はいなかった。キムは前述HubSpotが主催したイベントでの講演で「これまでのキャリアをずっとズボンのジッパーを開けたまま歩きまわっていたようなもの。なぜ誰も言ってくれなかったのか」とジョークを言ったが、相手の心を傷つけてはいけないという周囲の思いやりがかえってアダになるところが似ている。

シェリルとキムはハーバード大ビジネススクールの同級生だったということもあり、すでに信頼する人間関係があった。そして、キムのことをシェリルは個人的に思いやっていた。そのうえで、「あなたは、ここを直せば向上できる」とチャレンジしたわけだ。

でも、職場でこれをしてくれるボスはほとんどいない(キムは『ボス』という言葉を気に入って使っている)。

キムには「人を侮辱するほうが、モチベーションが上がる」と信じていたひどい上司がいた。そんな経験があるので、自分がソフトウエアの会社を起業したとき、社員が仕事とお互いを愛せるような環境を作ろうとした。けれども、予期しない失敗をした。
「良い人だけれど、仕事ができない」というタイプの部下に率直にそれを伝えることができず、最終的に解雇するしかなくなったのだ。遠慮して「ズボンのジッパーが開いてますよ」と言ってあげなかったケースだ。

長年の体験でキムが辿り着いた結論は、最良のマネジメント・スタイルが「Radical Candor(徹底した率直さ)」だということだ。

つまり、シェリルのような率直さだ。

わかりやすくするために、キムは2つの軸を使って説明している。

radical candor
Radical Candorのサイトより

縦軸はcare personally(相手のことを個人的に思いやる)で、横軸はchallenge directly(率直に批判する/異議を唱える)だ。

部下を侮辱するキムの昔の男性上司は、相手への思いやりがまったくないただの攻撃なので、「Obnoxious Aggression:不快な攻撃性」の範疇に入る。

そんな上司になりたくなくて、仕事ができない部下に問題を伝えて指導することができなかった過去のキムは、相手が必要としている批判や提言ができなかった「Ruinous Empathy : ダメージを与える共感」のカテゴリだ。

ことに職場を破壊するのが、「Manipulative Insincerity : 操作的な不誠意」だ。
キムの元同僚のネドは、自分の自信のなさを隠すために、公の場で他人を攻撃的にこき下ろす態度に出た。これは「Obnoxious Aggression:不快な攻撃性」だ。
しかし、キムを含めた同僚たちはネドを止めなかった。後で個人的に問題を指摘して改善を求める者もいなかったので、ネドは学ぶ機会がなく、攻撃性は悪化した。
キムがネドに何も言わなかったのは、「ネドはろくでなし(asshole)だから話しても仕方ない」と最初から見捨てていたからだ。その自分の態度が「Manipulative Insincerity : 操作的な不誠意」なのだとキムは反省する。

「Radical Candor徹底した率直さ」とは、相手のことを思いやりつつ、必要なことを率直に伝えることだ。
簡単なようだが、実際に行うのはなかなかむずかしい。

そもそも、アメリカのトップの地位に就いているトランプ大統領のマネジメント・スタイルは逆なのだ。

1980年代にトランプが経営する「トランプ・プラザ・カジノ」の重役だったジャック・オドネルによると、トランプは社員から別の社員の噂を引き出し、その噂を広め、社員同志を対立し、競争させる環境を作っていた。

問題があるなら、その社員に直接伝えて解決するべきだが、トランプはその努力はせずに公の場で屈辱を与える方法を取ってきた。
本書を読んでいると、大統領になってからのトランプも、「Radical Candor」以外のすべての悪いマネジメントを行っているのが明らかだ。トランプ人事が長続きしていないのは、周知の事実だ。

キムのコーチングが必要なのは、シリコンバレーよりもホワイトハウスかもしれない。

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