私たちの日常に潜んでいる人身売買や性奴隷について考えさせてくれるサスペンス The Guest Room

作者:Chris Bohjalian
ペーパーバック: 336ページ
出版社: Vintage
ISBN-10: 0804170983
発売日: 2016/1/5
対象年齢:R(成人向け)
難易度:上級(ネイティブの普通レベル。小説に慣れている人ならスルスル読める文章)
ジャンル:サスペンス
キーワード:バチェラー・パーティ、prostitution(売春)、人身売買、性奴隷、ロシアマフィア、夫婦関係
2017年 これを読まずして年は越せないで賞候補

アメリカの結婚式では、新郎新婦の兄弟姉妹や友人たちが、Groomsmen(新郎サイドの男性)、Bridesmaids(新婦サイドの女性)として式に参加する。結婚式当日だけでなく、ドレスを選んだり、式の段取りに関わったりするのがアメリカの慣習だ。

ベストマン(Best Man)とメイド・オブ・オナー(Maid of Honor)は、それぞれのグループの代表的存在で、式まで新郎新婦のアシスタントになり、独身最後のパーティのまとめ役を務める。

新婦サイドの結婚式前のパーティは、たいていの場合は、お茶を飲みながら沢山のプレゼントをもらう「シャワー」と呼ばれるおとなしい集まりだ。だが、新郎サイドの「バチェラー・パーティ」は、「独身最後の放蕩を楽しむ会」になりがちだ。参加するのはもちろん男性だけで、女性側にはマル秘だ。参加者が大量に酒を飲んだり、ギャンブルをしたり、ストリッパーを呼んだりして羽目をはずすことで知られている。

興味深いトピックを選んでスリラー/サスペンスにすることで知られるクリス・ボジャリアン(Chris Bohjalian)の最新作『The Guest Room』では、弟のベストマンになったリチャードが、バチェラー・パーティに自宅を提供することを承諾する。

投資銀行家のリチャードは、高校教師の妻と9歳の娘を持つ生真面目な愛妻家だ。ホテル業界で働く弟と彼の友人たちは無責任な遊び人タイプなのだが、裕福なニューヨーク郊外の自宅でのパーティならそんなに羽目は外さないだろうと高をくくっていた。とはいえ、男たちは酔っ払うだろうし、ストリッパーが来るかもしれないので、妻と娘は妻の母親の家に泊まる手配になっていた。

ところが、弟の親友がアレンジしたストリッパーは、ふつうのストリッパーではなかった。
通常なら、ボディガードはストリッパーに手を触れさせない。なのに、2人のボディガードにエクストラの金を渡せば、セックスをさせてもらえるというのだ。ストリッパー2人は、とても美しい若い女性たちだ。弟たちが安易に行為に及ぶ異様な雰囲気と、酔った勢いで、リチャードは黒髪の美しい女性と2階の客用寝室(Guest Room)に行く。しかし、すんでのところで思いとどまり、「僕は結婚しているから」と断った。

二階から降りたとき、すでに収拾がつかなくなっていたバチェラー・パーティが、さらに悪転した。
ブロンドの女がボディガードのひとりを刺殺したのだ。それに引き続き、もうひとりのボディガードも銃殺された。
そして、2人の女性は姿を消した。

セックスはしなかったものの、その寸前までいったのは事実だ。リチャードは、最初から妻にそれを打ち明けた。

だが、静かな郊外で起こった売春と殺人事件が家庭内の揉め事だけで留まるはずはない。即座に大ニュースになった。

血だらけになったリチャードの自宅は、プロが掃除をしても元には戻らない。そして、テレビや新聞のレポーターたちが常に取り囲んでいる。

そのうえ、ただのストリッパーだと思っていた女性2人が、未成年者で、しかもロシアマフィアが監禁していた性奴隷だということがわかってきた。

リチャードは、愛する妻との関係や、娘からの信頼、そして家族そのものが壊れかけていることに苦悩する。そのうえ、性奴隷を手配した弟の親友がリチャードと少女が裸になっている映像を録画していたことがわかる。その友人は、映像を公開すると脅し、リチャードに金を要求した。

いっぽう、2人の少女は命がけでロシアマフィアから逃げるが、だんだん追い詰められていく……。

『The Guest Room』は、詰め込みすぎで、小説の完成度としては満点を与えることはできない。
しかし、無垢なアルメニア人の少女たちが騙されて誘拐され、性奴隷として生きるしかなくなる経緯など、全世界で実際に起こっている重要な問題に焦点を当てている小説として、非常に重要だと思った。

人身売買や性奴隷に関するノンフィクションやレポートは山ほどある。
でも、本当に読んで欲しい人に届かないもどかしさがある。

だが、サスペンスという形であれば、犠牲になっている少女に感情移入することができるのではないかと思うのだ。

この小説を読めば、本人が自由意志でやっているように見えても、じつは、騙され、誘拐され、脅されている女性がいるのだとわかる。そこには「自由意志」どころか、選択肢すらない。その残酷な事実を、もっと多くの人に知ってほしい。

「本人の自由意志でやっていることだから、いいじゃないか。商売を支えてやらなくちゃ」などと言って、いわゆる「フーゾク」や売春を安易に利用する人が減ってくれることを、心から祈る。

それらの理由で、2016年の作品だが、これを今年の「これを読まずして年は越せないで賞」の候補にしたい。

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