予期していなかった悲劇で理想的な人生が不可能になったときの生き方の選択 Option B

作者:Sheryl Sandberg (Lean In)/Adam Grant (Originals)
ペーパーバック: 240ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 1524711217
発売日: 2017/4/24
適正年齢:PG15(ティーンが読んでも問題はないが、大人向けの本)
難易度:中級+(日本人にもわかりやすい平易な文章)
ジャンル:回想録/啓蒙書
キーワード:Grief & Bereavement、家族の突然の死、悲劇や挫折からの立ち上がり

FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグの『Lean In』については、刊行の初期から日米どちらもで強く薦めてきた。その年に刊行した拙著『ジャンル別 洋書ベスト500』にも入れたし、英語で書いた私のGoodreadsのレビューには、likesが130もついている。

この本での、サンドバーグと夫のデイブ・ゴールドバーグの支え合う信頼関係に親近感を抱いていたので、ニュースで彼の突然の死を知ったときには、まるで知人を亡くしたようなショックを受けたものだ。
そして、残されたサンドバーグと二人の子供たちのことを思い、涙が出た。

このニュースは、私自身が大切に思っている世界への脅威でもあった。

私たちがふだんあたりまえのこととして受け取っている、家族との平穏な暮らしは、こうしてあっけなく壊れてしまうかもしれないのだ。そんな怖いことは考えたくない。頭に浮かぶたびに、可能性を忘れようとする心理が働いた。
本書を最近まで避けてきたのは、その厳しい現実から目を背け続けていたかったからかもしれない。

この「目を背けたい」という心境が、悲劇を直接体験した人を避けるという行動に出てしまうことがある。
そういった感情が、本書でサンドバーグが「Non-Question-Asking Friend(「どうしている? 大丈夫なの? 」と尋ねないで、別のことだけを話す友だち)」という現象となって現れる。

感情を避けるだけでなく、何を言っていいのかわからない、触れてほしくないのではないか、といった遠慮もある。だが、何も尋ねてもらわない人は、孤独に陥りやすいのだ。ネガティブな感情は隠さなければならない、というプレッシャーもある。サンドバーグは、中国や日本の文化をその例として挙げている。

私にも、サンドバーグほどではないが、lossをひとりで耐えなければならなかったことがある。
誰にも辛さを打ち明けられない苦しみは、いつまでも尾を引く。親しい友人や家族というサポートシステムがない環境だったので、抜け出すのに時間がかかった。

この部分を読んでいるときに、ちょうどアメリカ人の知人の母親が亡くなったことを知った。すでに90歳近い方だったが、やはり親はいつ亡くなっても悲しいし、寂しいものだろう。そこで、通常のお悔やみの手紙ではなく、「戻って落ち着かれたら、ぜひわが家に食事に起こしください。そのときに、お母様との思い出をおきかせください」と書いた。

そういう意味で、この本はすでに誰かを助けてくれたことになる。

「Option B」というタイトルは、サンドバーグの友人フィルの言葉から来ている。父と子のアクティビティで、亡き夫デイブの代替になる人を探しているとき、サンドバーグは「でも、私はデイブがいい」と泣いた。そのときに、フィルは「Option A(選択肢A)はもう選べない。こうなったら、Option Bをおおいに楽しもうじゃないか」

本書には、Option Aが不可能になった悲しみを受け入れたうえで、Option Bの人生でふたたび笑いや幸福感を感じられるようになるための、提案が書かれている。

サンドバーグ自身の正直な感情が含まれた回想録と、心理学者でベストセラー作家のアダム・グラントによるアドバイスが含まれている。
回想録でもなく、ルポでもなく、自己啓蒙書でもないところが、この本の長所であり、短所でもある。

サンドバーグ自身の体験として読んでいると、突然統計や別の例が出てくるので、心理的に距離を持つことになる。その距離のために、かえって私はアドバイスをすんなりと受け入れることができなくなった。
しかし、読者のタイプによっては、こちらのほうが良いと思う場合があるだろう。

サンドバーグがデイブの死後にデートを始めたことについても、賛否両論があるだろう。
それを承知のうえで、しっかりと話題に触れているところがサンドバーグらしくて好感を抱けた。

伴侶が亡くなった後、そのままその人だけを思い続けるのか、そうでないのかは、個人の選択だし、その場になってみないと誰にもわからないことだ。

また、サンドバーグのように豊富なサポートシステムがない人にとっては、参考にならないこともあるだろう。

しかし、Option Bを実際に見せてくれたサンドバーグの勇敢さだけは、しっかりと評価しておきたい。

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