女性の身体をホラーとエロスで分解する、全米図書賞最終候補の超ジャンル文芸短編集 Her Body and Other Parties

作者:Carmen Maria Machado(新人)
ペーパーバック: 245ページ
出版社: Graywolf Pr
ISBN-10: 155597788X
発売日: 2017/10/3
適正年齢 R(成人向け)
難易度:超上級(英語力だけでなく、読解力を要する。アメリカのカルチャーにも通じている必要がある)
ジャンル:文芸短編集
キーワード:ホラー、エロス、伝説、Law & Order: SVU、ガールスカウト、アーティストコロニー、同性愛、バイセクシャル
文学賞:2017年全米図書賞最終候補

新人の短編集が全米図書賞の最終候補になり、しかもベストセラーになったことには、著者も出版社も驚いたようだ。

文芸評論家に絶賛されるのは容易に想像できる文章だが、売れるかどうか尋ねられたら返答に困ったと思う。Angela Carterの影響を感じる味わい深い短編集なのだが、一言で説明するのが不可能な「つかみどころのなさ」がある。

身体が透明になって消える女性たちと消えた女性たちを縫い合わせるドレスメーカー、主人公2人がドッペルゲンガーたちにつきまとわれる二次創作的な偽りの『Law & Order: SVU』エピソード、死病が蔓延するアメリカ北部で通り過ぎていく旅人と交わりながらも、孤独に世紀末を待つ女性など、共通するのは、女性の身体だ。しかも、静かに「血みどろ」である。

個々のストーリーに、女性の身体とそれにまつわる快楽、苦痛、自己嫌悪、ミステリ、心身の暴力、肉体関係での支配の戦いが散りばめられている。登場人物の女性らは、まるで言葉よりも肉体を信じるかのようにコミュニケーションのツールとして自分の身体を使う。しかし、それで何をコミュニケートしているのか、その謎解きは私たちに任されている。

彼らは解放されているようで縛られ、強いようで脆弱だ。個々の人物の性的志向の説明はほとんどなく、性愛の対象は女性から男性まで流動的だ。
古い世代の読者には馴染めないかもしれないが、文学に通じているアメリカ都市部の若者の間にとっては違和感はないようだ。

それとも関係するのだが、この短編集に出てくる『Law & Order: SVU』、ガールスカウト、アーティストコロニーなどは、アメリカで生まれ育った人か、アメリカの小説をたくさん読んでいる人でないとよく理解できないだろう。ゆえに、もともと難解な短編が、日本人読者にとってはさらに難解に感じるのではないかと思う。

首にリボンを結んでいる女性の短編はとても印象的だが、これは、作者Carmen Mariaが属するミレニアル世代のアメリカ人には馴染みがある物語を元にしたものだ。しかも、それは、アメリカの子供が小学校1年生で初めて本を読み始めるときに使う「I Can Read」シリーズの「In a Dark, Dark Room and Other Scary Stories (I Can Read Level 2)」に含まれているものなのだ。
この本には7編のホラーが含まれているのだが、首にリボンを巻いたジェニーの話はシンプルながらも最後にゾッとする。これで悪夢を見たのを大人になっても覚えている人がけっこういるらしい。
子供時代に悪夢を見た人が多いからこそ、Machadoの短編がシュールに響く。

セックスシーンが非常に多いわりには、セクシーでもエロチックでもない。どちらかというと、怖くなったり、気持ちが悪くなったり、虚無感を覚えたりするかもしれない。

私は24歳の娘の絶賛で手に取ったのだが、通常の親子が読書会をするタイプの本ではないので、それだけはちょっと付け足しておきたい。

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