作者:C. J. Tudor
ハードカバー: 352ページ
出版社: Michael Joseph
ISBN-10: 0718187431
発売日: 2018/1/11
適正年齢:PG15+(残酷シーンあり)
難易度:上級
ジャンル:スリラー/ミステリ
キーワード:幼なじみ、お蔵入り殺人事件、友情、裏切り、回顧
英米で1月に発売されたばかりなのに、チェックしたら日本でも5月に邦訳版が出ていました。お仕事速い!
30年前の1986年、イギリスの小さな町に住む12歳の少年エディは、移動遊園地で事故に遭遇した。そして、ミステリアスでカリスマ的なミスター・ハロランと出会った。遺伝的に色素が欠乏しているアルビノのハロランは、エディが通う学校の新しい教師だった。趣味で絵を描くハロランがエディの友達にチョークをプレゼントしたことや、見かけの印象などから、エディはハロランを「The Chalk Man(チョーク・マン)」と呼ぶようになる。
エディには一緒に自転車を乗り回して遊ぶ4人の仲が良い友人がいた。少年4人と少女2人だ。だが、いくつもの事件が重なり、ある殺人事件をきっかけに彼らの子供時代は終わりを告げた。
それから30年たった2016年、中年になったエディは独身のまま両親の家で暮らしていた。学校教師をしていたが、副収入のために部屋も貸している。9ヶ月前から下宿している20代の女性にほのかな恋心を抱いているが、ただの同居人の関係を保っている。
孤独だが平穏な生活を送っているエディのもとに、昔の友人のひとりが訪ねてくる。30年前の殺人事件について本を出したいので協力してほしいというのだ。彼は、お蔵入りになっているバラバラ殺人事件の犯人を知っているという。
だが、その夜、エディの家を出た友人は姿を消し、死体でみつかる。これをきっかけに、ばらばらになっていた友人たちの過去と現在の真実が浮かび上がってくる……。
妊娠中絶手術を専門にする女医の母と早期アルツハイマーになった正義感ある父。中絶反対派の活動家を煽って母親を追い詰める牧師と牧師の父に虐待される友人の少女。自分を虐待する友人の兄。静かに正義を貫くチョーク・マン……。エディの子供時代の描写は、スティーブン・キングを連想させる。友人たちが一緒に死体を見つけるところなど、映画『スタンド・バイ・ミー』の原作になった短編みたいだ。問題がある殺人事件はずいぶん後にならないと出てこないし、ふつうのミステリやスリラーより文学的でよみごたえがある。
非常に凝ったプロットで、ベストセラーになっている多くのミステリよりずっと優れた作品だ。
しかし、問題がないわけではない。最後まで読者を驚かせる努力は感じられたが、そこを頑張りすぎただめに、エディの心理にリアリティがなくなった気がするのだ。キングの魅力は、登場人物との感情的なコネクションだ。それが欠けると、やはり満点を与えられない。そこが残念でならなかった。