作者:Kate Morton
ハードカバー: 592ページ
出版社: Mantle(UK)/ Atria(US)
ISBN-10: 0230759289
発売日: 2018/9/20
難易度:上級〜超上級(登場人物が多く、時間があちこちに飛ぶので、英語ネイティブでも混乱する可能性がある)
適正年齢:PG12(特に問題となる表現や描写はない)
ジャンル:文芸小説(歴史小説、ミステリ)
キーワード:イギリス、マナーハウス(荘園の領主が住んでいた館)、テームズ川、幽霊、未解決事件、悲恋、人間模様
1862年、新進の画家エドワード・ラドクリフが友人たちを招いて夏を過ごしていたテームズ川上流にある館「バーチウッドマナー(Birchwood Manor)」で、ある事件が起こった。その結果、エドワードの婚約者が死に、エドワードが惚れ込んでいたモデルのリリーと、ラドクリフ家に代々伝わるブルーダイヤモンドが姿を消した。このときからエドワードは創作の意欲と生きる気力をなくし、歴史から忘れ去られた。婚約者を失ったショックがその理由だと言われていた。
それから150年以上たったロンドンで、アーキビスト(公文書保存専門家)のエロディは、職場で偶然に革鞄を見つけた。どこにも記録されていない鞄の中にはスケッチブックと若い女性の写真があった。スケッチブックの中に描かれていた館を見てエロディは驚く。なぜか馴染みがある館だったからだ。スケッチブックと女性の写真の謎に取り憑かれたエロディは、数週間後に迫った自分の結婚式の準備を逃れ、現在は博物館になっているバーチウッドマナーを訪問する。
バーチウッドマナーは、エドワードの死後、彼の妹のルーシーの手に渡った。ルーシーは一時期館を寄宿制の女子校にしていたが、学生が川で溺れ死ぬ事件があり、閉校になった。その後一人で館に住んでいたルーシーは、亡くなる前に「アーティストのリトリートに使う」という条件付きで館を非営利法人に寄贈した。
バーチウッドマナーに住んだ人々は、館に宿る不思議な存在を肌で感じていた。そして、まれに、彼女と会った者もいた。それは、ブルーダイヤモンドを盗んで姿を消したと噂されていたエドワードのモデルだった。
時計職人と駆け落ちした貴族の娘から生まれた美しい少女は、過酷な人生を経て館に宿る魂になり、そこを訪れる人々を観察しながら過去を思い出す。そして、1862年の事件が明らかになろうとしていることを感じる……。
ケイト・モートンは、私がとても好きな作家のひとりであり、彼女の作品はすべて読んでいる。
なので、新作のARCを入手しただけでなく、モートンにサインしてもらえたのは最高に嬉しかった。

同席したモートンのパブリシストはThe Clockmaker’s Daughterを「これまでで最高の作品」と力説したが、モートンの熱狂的なファンがそれに同意するかどうかは疑問に思う。
モートンが描く世界はいつものようにマジカルであり、その世界に入り込み、バーチウッドマナーに宿る魂のように漂うのは心地良い。館に宿る魂が一人称の語り手だというのも、このマジカルな雰囲気を増幅させている。文章でこの心地よさを与えてくれる作品は希少だ。その点では、The Clockmaker’s Daughterは読者の期待を裏切らない。
しかし、作品の完成度という点ではThe Forgotten GardenやThe House at Riverton、ゴシック的な雰囲気や切なさの点ではThe Distant Hoursに及ばないと感じた。
それでも、ほかの作家の作品にはない世界を紡ぎ出してくれたというだけで星5つの価値がある。