AIとポスト真実の21世紀を我々はどう生きるべきか? 21 Lessons for the 21st Century 

作者:Yuval Noah Harari
ハードカバー: 368ページ
出版社: Jonathan Cape
ISBN-10: 1787330672
発売日: 2018/8/30
難易度:上級(テーマについての基本的な知識があれば英語そのものは難解ではない)
ジャンル:ノンフィクション(歴史/哲学)

本書は、人類の歴史をコンパクトかつドラマチックに語る歴史書Sapiens: A Brief History of Mankindで有名になり、その続編とも言える人類の未来を語るHomo Deus: A Brief History of Tomorrowが大ベストセラーになったユヴァル・ノア・ハラリの第3作である。

21世紀に我々人類が直面する21の問題について語るもので、「The Technological Challenge (技術的な課題)」、「The Political Challenge (政治的課題)」、「Despair and Hope(絶望と希望)」、「Truth(真実)」、「Resilience(回復力)」という5つのパートに分かれている。

その5つのパートに分かれた21の章で、ハラリは「Disillusionment(幻滅)」「職(Work)」「自由(Liberty)」「平等(Equality)」「コミュニティ(Community)」「文明(Civilisation)」「ナショナリズム(Nationalism)」「宗教(Religion)」「移民(Immigration)」「テロリズム(Terrorism)」「戦争(War)」「謙虚さ(Humility)」「神(God)」「世俗主義(Secularism)」「無知(Ignorance)」「正義(Justice)」「ポスト真実(Post-truth)」「サイエンスフィクション(Science Fiction)」「教育(Education)「意義(Meaning)」「瞑想(Meditation)」という21のテーマについて語っている。

すべての章に博識のハラリらしい面白い歴史的事実や考察が散りばめられているのだが、非常に興味深い章とそれほどでもない章が混在しており、これまでの3冊の中では最もまとまりに欠けている。

この中で、私が特に興味深く読んだのが、現在のアメリカや日本の状況に直接関係ある「ナショナリズム」「無知(Ignorance)」「正義(Justice)」「ポスト真実(Post-truth)」の章だった。

「ナショナリズム」には「国家主義」「国粋主義」「愛国主義」といった意味がある。ニュアンスによって異なるので、ここでは「ナショナリズム」を使っておく。副題は「地球規模の問題には地球規模の回答が必要である」であり、それだけでも「なるほど」と感じるだろう。

現在、イギリスのブレグジットやアメリカでのトランプの台頭など、大国が次々と国粋主義的な孤立主義になりつつあり、日本にもそういった雰囲気が漂っている。この現象の背後にあるナショナリズムは、人間の本質的な性質だと信じられている。だが、ハラリは「常識とは異なり、ナショナリズムは人間心理の自然で永久な部分ではなく、ヒト生物学に根ざしたものでもない」と書いている。

人間は社会的な動物であり、集団への忠誠心は遺伝子に刻み込まれている。しかし、何千年ものホモ・サピエンスの歴史で、人間の先祖が一緒に住んでいた親密な関係のコミュニティは、大きくても何十人程度だったのだ。人間は部族(tribe)や歩兵部隊、家族経営事業のように小規模の親密な集団に対して容易に忠誠心を抱くが、何百万人もの赤の他人に対して忠誠心を抱くような性質は自然には持ち合わせていない。「国家」などといった大規模なスケールのものに対する忠誠心は、過去数千年の間に現れたものであり、進化的な時間のスケールでは「昨日の朝」程度に最近のことだとハラリは言う。新しいコンセプトであるだけでなく、その維持のためには「社会構築の計り知れない努力を要する」のだ。

ハラリは数千年前のナイル川流域を例に挙げ、単独の小さな部族だけでは対応できない大きな取り組みをするために人々が手間をかけて「国家」という大きな集団を構築したことを語る。だが、異なる部族や氏族をひとつの国にまとめるのは容易なことではない。それは古代でも現代でも同じだ。

イスラエル国民であるハラリは、「『イスラエル』という国とその800万人の住民に対して忠実であるよう私に納得させるために、シオニズム運動とイスラエル国家は、教育、プロパガンダ、愛国心を掻き立てる運動といった巨大な組織を構築する必要があり、同時に、国家安全保障、健康保険、福祉を提供する必要があるのだ」と説明する。

大きな組織は大規模な忠誠心なしには成り立たない。ハラリは、「マイルドな形の愛国心は、人間が創造したものの中では最も慈悲があるもののひとつだ」と言う。自分の国が特別なものだと感じ、ほかのメンバーに対して特別な義務感を持ち、世話をし、その人たちのために自分を犠牲にする気持ちを抱く元になるのがこのマイルドな形の愛国心だからだ。「ナショナリズムがなければ、すべての者がリベラルの楽園で暮らせると想像するのは危険な過ちだ。複数の部族による混乱のなかで生きる可能性のほうが強い」とも忠告する。「スウェーデン、ドイツ、スイスといった平和で豊かでリベラルな国々には強いナショナリズムの感覚がある。国家の強い縛りに欠けた国のリストには、アフガニスタン、ソマリア、コンゴ、その他の破綻した国家のほとんどが並ぶ」というのも、左寄りのリベラルが唱える単純な理想論を打ち崩す意見だ。

ナショナリズムが問題になるのは、ハラリが言うように「無害な愛国心が、熱狂的な超国粋主義に変貌するとき」だ。すべての国の国民が「わが国はユニークだ」と思うし、それは当然のことだ。しかし、「わが国は最高だ。私はこの国にすべての忠誠を誓わねばならない。この国と国民以外には何の義務もない」と思い始めたときに、暴力的な抗争が起こりやすくなる。これは、イギリス、アメリカ、日本などで起こっている不気味な雰囲気を連想させる。

多くの人は問題を白黒はっきりさせたがるが、ハラリはこのようにそれ自体を問題視する。特にオススメしたいのが「パート4(Part IV)」の「Truth」の部分だ。

2016年のアメリカ大統領選を牛耳ったのは、「無知(Ignorance)」「正義(Justice)」「ポスト真実(Post-truth)」だった。2019年1月に発表されたプリンストン大学ウッドローウィルソン公共政策大学院の調査では、選挙中にフェイスブックで偽ニュースをシェアした者のほとんどがトランプ支持の保守だった。リベラルでは偽ニュースシェアが極端に少なかったのだが、「非常にリベラル」になるとシェアがやや増えていた。極端な思想になればなるほど極端なニュースを簡単に信じやすくなるのかもしれない。

この現象の背後にあるのが、ハラリの書くgroupthink(集団思考)だ。

石器時代には人々は自分で自分の着るものを作り、火をおこし、うさぎを狩らなければならなかった。だが、現代人は自分がふだん着ている服のジッパーの構造すら知らない。「個々の人間は恥ずかしくなるほど世界について無知であり、歴史が進むにつれ、ますます知っていることが少なくなっている」とハラリが書くとおりなのだが、私たちは自分たちがもっと知っているような「知識錯覚」に陥っている。それは、他人の頭の中にある知識をまるで自分のもののように扱うからだ。これが「集団思考」だ。

進化論の観点からは、ホモ・サピエンスにとって他者を信頼する「集団思考」は非常に有効だった。だが、世界がもっと複雑になった現代では「集団思考」と「知識錯覚」が問題を引き起こしている。

たとえば、イラクやウクライナへの対処にしても、地図のどこにあるか指差すことができない人たちが非常に強い意見を持っている。自分が無知だと感じたい人はいないので、同じような考え方をする友人たちとだけ交流し、自分が信じる情報が正しいことだけを互いに確認しあい、信念を強化する。

民主主義は「有権者はよく知って投票する」という考えに基づいているが、私たちもよく知っているように、有権者は政治家のアジェンダを冷静に分析したりはせず「感情」で投票する。そういったこともハラリは指摘する。しかも、多くの者には自分が感情で投票している自覚すらないのだ。そういった人たちが平等に重要な票を投じるのだから、考えると恐ろしいことである。

真実ではないフィクションの「偽ニュース」は、現代の大きな問題になっているが、フィクションのすべてが悪いというわけでもない。Sapiens(『サピエンス全史』)を読んだ人なら覚えているだろうが、フィクションの形でコンセプトを伝えることが、人類のユニークなところなのだ。人間にフィクションを作って信じる能力がなければ、「国家」という観念を信じさせ、維持させることもできない。問題をこうして他角度から見させてくれるのも、ハラリの魅力だ。

ハラリの21 Lessons for the 21st Centuryを読んでも、人類の未来に対する明確な答えは得られない。だが、「良い質問」はぎっしりと詰まっている。

そう思ったので、クリスマスに17歳のアメリカ人の甥にこの本をプレゼントした。アメリカのトップ0.1%以上の収入がある親から勝ち組になるためだけの教育を受けてきた彼に、彼らが生きねばならぬ21世紀を異なる角度から考えてもらいたかったからだ。

21世紀に人類がどんな進化をとげるのか、それを個人的に見届けることができないのはつくづく残念だ。

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