作者:Maurice Carlos Ruffin
ハードカバー: 336ページ
出版社: One World
ISBN-10: 0525509062
ISBN-13: 978-0525509066
発売日: 2019/1/29
適正年齢:R(成人向け)
難易度:上級(アメリカの歴史や社会状況を理解している必要あり)
ジャンル:近未来小説
キーワード、テーマ:アメリカ、黒人、人種差別、アイデンティティ
大統領自身が移民差別や人種差別を煽り、武器を持っていない黒人を警察官が射殺するなどの事件が多発しているアメリカだが、この小説の舞台になっている近未来の南部では、その状況がさらに悪化している。
語り手の黒人男性は、白人女性と結婚し、バイレイシャル(2つの人種がまざった)の息子がいる。高収入の専門職に就いており、家族と愛し合い、申し分ない生活を送っているのだが、「黒人である」ために社会から受ける制裁を常に恐れている。
もうひとつ彼の頭から離れないのが、息子の顔にある黒い痣だ。息子の痣を消し、肌を白くしたい彼は、妻の反対や息子の抵抗を無視して、執着心を強めていく。そして、その執着心が家族を壊していく。
設定はSF(スペキュラティブ・フィクション)なのだが、いつでも現実になりそうなので、近未来小説というよりも現代小説のように感じる。
本人が気づかずに話している白人から黒人への「上から目線」発言など、笑える部分はいくつもあるが、全体的にはダークな本である。また、「息子を白くすること」にこだわりすぎて嘘までつく夫に対する妻のペニーの怒りは納得できるが、同時に、白人ではない読者には「白人だから差別されないあなたに何がわかる?」とも感じさせてくれる。そのあたりの微妙さが、この小説の優れた部分だ。
小説そのものとしては物足りなさがあったが、異なる人種間の結婚の難しさなど、黒人男性の作者だからこそ描くことができる部分に価値を感じた。