消えた2人の少女を背景に、カムチャッカ半島で生きる女たちの姿をちりばめた2019年全米図書賞候補 Disappearing Earth

作者:Julia Phillips(デビュー作家)
ハードカバー: 272 ページ
Publisher: Knopf
ISBN-10: 0525520414
ISBN-13: 978-0525520412
難易度:上級
適正年齢:R(大人向けに書かれていいるが、高校生以上でもOK)
ジャンル:文芸小説
キーワード:カムチャッカ、ペトロパブロフスク・カムチャツキー、エッソ、ロシア、多民族社会、誘拐事件
文芸賞:2019年全米図書賞候補(結果は11月20日発表)

デビュー作でありながら2019年全米図書賞の最終候補になったJulia Phillipsの『Disappearing Earth』は、ロシアのカムチャッカ半島(地方)を舞台にした、短編を繋いだような長編小説である。

8月の夏休み、両親が離婚し、ジャーナリストの母に育てられている姉妹は、カムチャッカ地方の最大の都市ペトロパブロフスク・カムチャツキーの中心街を2人きりで歩いていた。子守を押し付けられてうんざりしている姉は、地震と津波でここにあった町そのものが消え去った話を妹にする。その後、姉妹は姿を消した。

犬を連れて散歩していた女性が、身体が大きな白人の男が少女と一緒に歩いているのを目撃して警察に通報したが、少女たちは見つからなかった。

ミステリになりそうな出だしだが、少女たちが消えた事件は、次の章からは背景になる。そして、9月、10月、11月と月がタイトルになっているそれぞれの章で、カムチャッカ地方に住むいろいろな女性のストーリーが語られる。カムチャッカには肌が白いロシア人のほかに、その前からこの地に住んでいたコリャーク人、エヴァン人など多様な民族が住んでいる。だが、ここでも中央政府で力を持つ白人(ロシア人)が特権階級であり、先住民族への差別が存在する。

ただし、この本が描いているのは人種差別ではなく、ソビエト連邦崩壊後のロシアの極東の地に浸透している古い考え方や、その中で生きる女性のやるせなさ、孤独感などである。赤ん坊とアパートに閉じ込められている生活から現実逃避するために夢想する警察官の妻や、ボーイフレンドから心理的な虐待を与えられていても現状を変えようとしない女子大生など、ここに出てくる女性のほとんどが、現状に満足していないのに逃げられないし、変えられないと思っている。カムチャッカの描写は魅力的だが、この閉塞感に読むのが辛くなってくる。

それぞれの章が短編小説のようなのだが、読み進めるにつれ、無関係のように見えた登場人物たちが繋がってくる。そして、ジャーナリストである姉妹の母が「カムチャッカのスイス」と呼ばれるエッソを訪問し、4年前に行方不明になった娘の消息を追及するカルチャーセンター長に会ったときから、ふたたびこの小説はミステリ的になる。

作者のPhillipsは31歳のアメリカ人女性だが、フルブライト奨学生としてカムチャッカに住み、文化を学んだ経験を持つ。それが活かされた小説で、この地をよく知らない者にはとても興味深く読める。だが、現地の女性が書いたものではないので、この地の女性の意見を聞いてみたいと思った。

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