子供がいきなり燃え上がるほかは、しごくまっとうで奇妙に心暖まる文芸小説  Nothing to See Here

作者:Kevin Wilson
ハードカバー: 272 pages
Publisher: Ecco
ISBN-10: 0062913468
ISBN-13: 978-0062913463
発売日:October 29th 2019
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:上級
ジャンル:文芸小説
キーワード:マジックリアリズム、Spontaneous human combustion(SHC,人体自然発火現象)、家族愛、友情、親子の愛

身勝手な母親に育てられたLillian(リリアン)だが、学業が優秀だったために奨学金と寄付で寄宿制の私立学校に入学し、貧困社会から抜け出すチャンスを得た。もともと風変わりなところがあるリリアンは、裕福な家庭の子供が集まる学校で孤立しそうになるが、ルームメイトのMadison(マディソン)が手を差し伸べた。マディソンと一緒にバスケットボール部で活躍し、優秀な成績をおさめていたリリアンだが、奔放なマディソンがおかした罪を肩代わりして退学になってしまった。

それから15年ほど、高校に行く前に母親が予言したように惨めで退屈な人生を送っていたリリアンのもとに、上院議員の妻になったマディソンが助けを求める手紙を送ってきた。

マディソンの住む大邸宅に着いたリリアンは、最初のうちはマディソンが昔の友情を再会させようとしているのかと思う。でも、じきにとんでもない大仕事を与えられたことを知る。マディソンの夫の元妻が亡くなり、彼女が面倒を見ていた子供たちを引き取ることになった。けれども、10歳になる女と男の二卵性双生児には深刻な問題があり、幼い息子を持ちながら夫の政治的アドバイスをするマディソンには面倒を見ることができない。だから、リリアンに双子の「governess」になってほしいと言うのだ。ガヴァネスと呼ぶと、まるでビクトリア時代の貴族の子供の教育係のようだが、実際には体の良い「子守り」である。

リリアンはつい引き受けてしまったのだが、マディソンの心理的な策略にまたも操られたことに薄々気づいてくる。双子の祖父母の家に引き取りに行くと、それは予想を越えた困難な仕事だった。双子は、感情的になったら本当に燃え上がるのだ。彼ら自身は火傷をしないのだが、そのほかの人物や物質にとっては本物の炎だ。そのうえ、彼らは野生の動物のように噛み付くし暴れる。怪我をしながらも、マディソンは、双子に対してある種の愛情を抱くようになる……。

この小説は2019年にかなり話題になっていて、何度か読もうかと思って後回しにしてきた。
Spontaneous human combustion(SHC,人体自然発火現象)のテーマにあまり魅力を感じなかったのと、「どうせ気取った文芸小説なのだろう」と決めつけていたところがある。

でも、読んでみたら、想像とはまったく異なる小説だった。

ともかく、読んでいて面白い。「突然燃え上がる子供」というマジックリアリズムがあるものの、後はふつうの小説である。でも、「ふつう」なのに、リリアン、マディソン、マディソンの夫など、全員どこかズレている。母親にもマディソンにも利用され続けているリリアンだが、それがわかっていても、「恨む」という選択をせずに、冷静に問題を解決し、栄光とはほど遠い人生を生きていく。

けれども、リリアン自身が定義しかねる、ある種のハピネスは手に入れるのだ。

中心人物が女性なのに、男性作家が書いたとは思えないほどよく描けていて、最後までどこか奇妙なのに心温まる。

読んで後悔しない小説だ。

1 Comment

  1. いつもブログ楽しみにしています!私もこの作品大好きです。村上春樹さんを読んだあとのような不思議な感覚と林真理子さんを読んだような爽快さがある読後感でおっしゃっていただいているように、「後悔しない」読後感でした。久しぶりに一気読みした作品です。

コメントを残す