トランプ大統領の暴露本というより、アメリカ政府と外交のゴタゴタ暴露本みたいなジョン・ボルトンの回想録 The Room Where It Happened

作者:John Bolton
Hardcover: 592 pages
Publisher: Simon & Schuster
Language: English
ISBN-10: 1982148039
ISBN-13: 978-1982148034
発売日:June 23, 2020
適正年齢:PG12
難易度:中級+〜上級(7/10)
ジャンル:回想録/時事政治(暴露本)
キーワード:トランプ大統領、トランプ政権、外交、国家安全保障問題担当大統領補佐官、ロシア、中国、北朝鮮、韓国、日本、ウクライナ、イラン、アフガニスタン


民主党がマジョリティを占める下院が、昨年「大統領が個人的利益のために外国政府の介入を招いた」という憲法違反の疑いで調査を開始し、12月18日に、権力乱用と議会妨害でトランプ大統領の弾劾決議を可決した。この弾劾決議では、すでに議会が認めていたウクライナへの軍事支援をトランプ大統領が凍結し、バイデンと彼の息子の疑惑調査をするようウクライナのゼレンスキー大統領に要求した。つまり、政敵の調査が軍事支援の「交換条件(quid pro quo)」だということが焦点になっていた。

上院は共和党が多数だから罷免されなかったのだが、下院での証言を拒否し、上院では共和党上院議員が証言をブロックしたジョン・ボルトンが書いた暴露本ということで、The Room Where It Happenedは注目を集めていた。

読んでみたが、この本はトランプ支持者とアンチ・トランプのどちらも喜ばせる本ではない。

トランプの無知、無能、気まぐれさ、外交プロの根回しを一瞬にしてムダにする自己アピールツイートが詳しく描写されているので、トランプ支持者は怒るであろう。だが、アンチ・トランプにとってはそんなトランプは当たり前。新しいスッパ抜き情報ではない。ジューシーな話題を探し求めるが、ウクライナの件は600ページ近い長い本の後のほうしか出てこないし、さほどジューシーでもない。

この本を面白く読めるのは、アメリカ以外の国に住む人ではないかと思う。「ここまで書いていいのか?」と思うほど海外のリーダーの数々をこき下ろしている。特に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領については「リベラルはこれだからあかん」という感じで、何度も徹底的にけなしている。まあ、でもこれは「外交よりも武力行使」というタカ派中のタカ派であるジョン・ボルトンの意見だから100%鵜呑みにするのは危険である。なんせ、上院を牛耳る共和党議員からの全面的支持が得られないことがわかっているので、国務長官とかの地位を狙えなかった人なのだ。「本当なら自分は、国家安全保障問題担当大統領補佐官なんて地位よりも国務長官になるべきだ」という本音が何度も見え隠れして、こちらが赤面するくらいだ。ボルトンは、当時の国連大使のニッキー・ヘイリーや自分の前に国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命されたハーバート・マクマスターなど、ほかの閣僚たちの言動すべてを「自分を売り込むマーケティング」と捉えているようだ。だがこれは、ボルトン自身の姿勢を投影しているにすぎない。

安倍首相は、トランプへのおべっかが功を奏してトランプのお気に入りでいるようだ。しかし、以前から言っているように、トランプは自分しか愛していないので、この「友情」は日本のお守りにはならない。トランプはこの関係をうまく利用しようとするだろうが。だから、日本や安倍首相に対する評価が悪くないからといってトランプやボルトンを歡迎したり評価したりするのは甘い。ボルトンも書いているが、トランプはニューヨークの不動産業のように外交をしているし、そのボルトンは多くの共和党員からも嫌われている。これがデフォだと思って合わせていたら、トランプのもとで働いた多くの人々のようにとんでもない目にあうかもしれない。そして、アメリカ国民に「トランプのマブダチ」だという印象を与えたら、政権が変わった場合には逆効果しかない。日本も安倍首相も、もっと賢く、狡猾であるべきだ。

トランプとボルトンは「オバマ嫌い」という点で共通点がある。ボルトンが出演しているフォックス・ニュースをしょっちゅう観ているトランプは、オバマ批判を繰り返すボルトンに惚れ込んだのだろう。ともかく、ボルトンは「やわな外交」を軽蔑している。北朝鮮にしてもイランにしても、「挑発的な行為をしたら、即座に武力を使って報復するべき」という立場だ。そのあたりが、経済制裁を試みるムニューシン米財務長官との確執にもなっていて、「奴は本質的には民主党員だから」という感じの悪口があちこちに出てくる。

ボルトンが書いていることをそのまま信じると、彼以外は全員ナイーブで愚かだということになる。ビル・クリントンやヒラリー・クリントンと同時期にイェール・ロー・スクールで学び、卒業後ずっと政治や外交の世界で生きていた人物だから頭も良いし、知識もあるのは確かだ。だが、いくらトランプ政権での官僚がしょっちゅう入れ替わる「回転扉」とはいえ、全員がそれほど無知で愚かだとは思えない。一緒に仕事をした同僚全員を回想録でけなす人物がいたら、けなされている人よりも、けなす人を疑ったほうがいいというのが私の考え方だ。

何より驚いたのは、「トランプも危険だが、もしかするとボルトンはもっと危険だったかもしれない」という感想を抱いたことだ。ボルトンのアグレッシブな意見をトランプが「論理的に」受け入れていたら、いまごろ、パンデミックと同時に、いくつかの国と新たな戦争をしていたかもしれない。このあたりは、集中力がなくて気まぐれなトランプに感謝するべきかもしれない。

とはいえ、他人の言うことを聞かないトランプに「外国や外国人を信じるな」「あまったるい外交よりも報復と制裁のほうが効果的」という信念を強化させたことで、ボルトンは「有能」だったかもしれない。

この回想録から読み取れるように、ボルトンのエゴもトランプに負けず劣らず大きい。だから、いつかこの2人が衝突するのは避けられなかったことだろう。彼が17ヶ月も続いたのは奇跡と言えるかもしれない。

これは、トランプ暴露本というよりも、混乱しているトランプ政権とアメリカ外交の暴露本だ。このめちゃくちゃな外交の悪影響を受けないという確約があれば、きっとエンターテイメントとして笑えるところが多いだろう。彼独自の皮肉なユーモアもちりばめられているし。

しかし、アメリカに住む身としては、笑っている余裕はあまりない。

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