作者:Mary L. Trump
Hardcover: 240 pages
Publisher: Simon & Schuster
Language: English
ISBN-10: 1982141468
ISBN-13: 978-1982141462
発売日:July 14, 2020
適正年齢:PG15
難易度:中級+〜上級(7/10、わからない単語があっても辞書を使えば理解できる文章)
ジャンル:回想録(暴露本)
キーワード:ドナルド・トランプ、メアリー・トランプ、フレッド・トランプ、トランプ一家、トランプの姪、トランプの富の秘密、家族の軋轢、税金詐称
トランプ大統領を説明する本は数え切れないほど出ているが、その中で、もっとも信憑性がある暴露本として期待されていたのが本書Too Much and Never Enoughだ。
作者のメアリー・トランプは、ドナルド・トランプ大統領の亡くなった兄の娘で、臨床心理学者でもある。トランプに関しては、多くの精神心理専門家が「自己愛性人格障害」などを疑っており、そういった本も出ているのだが、メアリー・トランプは、それだけでは説明できないと言う。それを説明するのが、まるで「家族の年代記小説」のようなこの回想録だ。
両親がドイツからの移民であるドイツ系アメリカ人としてニューヨークで不動産業で成功をとげたフレッド・トランプは、他者への愛情や同情心を「弱み」、残忍さを「強さ」ととらえる人物で、その方針に従って子どもたちを教育し、家族をコントロールし続けた。ドナルドたちが育ったトランプ家では「愛情」はまったく重視されておらず、「強いこと」と「他人に勝つこと」が最も重要な価値観だった。
フレッドの長男であるフレディは、パイロットになって経済的にも精神的にも独立したいという渇望と、父から認められたいという気持ちの間で揺れ動き、アルコール依存症になって若死にする。「愛情」という感情を持たないフレッドが、最もそれに近い情熱を注いだのが次男のドナルドだ。ドナルドは、父の教えに忠実だっただけでなく、それを越えたモンスターになっていく。兄が亡くなった日に姪や甥をなぐさめるどころか映画を見に行ってしまったエピソードとか、ドナルドの同情心や愛情の欠如は恐ろしいほど際立っている。
ドナルドは、父から少額のカネを借りて大成功した「セルフメイドマン」のイメージを売り物にしてきたが、実はその反対で、経済的に非常に成功した父のカネを使い果たして「セルフメイドマン」のイメージを売り込んだのだった。不動産業に関しても実際の仕事をしたのは父のフレッドであり、ドナルドが無知のまま手がけたカジノでは大失敗をしている。また、ドナルドはペンシルバニア大学ウォートン校に入るために他人を雇ってSATを受けさせたようだが、それも含めて、この家庭では、勝つためであれば、他人を騙すのも、違法なことをするのも奨励されていたようだ。
それにしても驚くのは、トランプ一家の徹底した「しみったれ」ぶりだ。大金があるというのに、自分の所持する安作りの不動産に長男家族を住まわせ、壁が壊れて外から冷たい風が吹き込んで長男が肺炎を起こしていても修理すら許さない。おまけに、トランプ家ではクリスマスプレゼントに他人からのプレゼントを再利用するのが当たり前になっていたようだ。そのうえ「家族愛よりもカネ」という価値観が徹底している。
こういうエピソードの数々を読んでいると、「大金持ちに生まれつくのは必ずしも幸福ではない」と思えるようになる。
アメリカの有権者が暴露を期待していたトランプの税金詐称の証拠だが、これはドナルドを含むフレディの兄弟姉妹がメアリーと弟を遺産から切り捨てようと試みたことが発端になっている。ニューヨーク・タイムズ紙の2018年のスクープ記事の証拠になる書類を提供したのがメアリーだということがこの本で明らかになるのだが、記者のSusanne Craigが突然メアリーの家に現れたときには「not cool」と追い払ったらしい。それが、最終的にあのスクープ記事になったのだから、NYTの記者の熱意に脱帽した。
トランプ一家の歴史は、まるでシドニー・シェルダンのようなページターナーでもある。シドニー・シェルダンだとしたら、この次は復讐劇の完結編だろう。それを待っている。
ボルトンの暴露本といい、この書といい、トランプ再選阻止に米国社会が向かっていこうとしている兆候なのか、と感じました。
そうですね。
著名な共和党の人たちが作ったリンカーンプロジェクトも活躍していますしね!