愛欠乏症の2人の切ない友情 The Knockout Queen

作者:Rufi Thorpe
発売日 : 2020/4/28
ハードカバー : 288ページ
ISBN-10 : 0525656782
ISBN-13 : 978-0525656784
出版社 : Knopf (2020/4/28)
適正年齢:PG15+
難易度:上級(8/10)
ジャンル:文芸小説
キーワード:LGBTQ、coming-of-age、broken family

まったく期待していない時に、思いがけない傑作に出会うことがある。Rufi ThorpeのThe Knockout Queenもそのひとつだ。

裕福な者の豪邸と貧困家庭の荒屋が混在するカリフォルニアのある町で、男子高校生のMichaelは同級生の少女Bunnyと出会う。Michaelは、母が父を刺した傷害事件で服役したときから母の姉(妹?)の家で暮らしており、その隣家の豪邸に住んでいたのがBunnyだった。同性愛者を自覚するMichaelは、裕福で優れたアスリートであるBunnyの意外な不器用さや、町の有力人物であるBunnyの父親の怪しさを直感的に嗅ぎ取るが、同時に彼らに惹かれる。

BunnyとMichaelは親友になるが、それぞれに家族にまつわる恥や愛される渇望は隠し持ったままだった。Bunnyの父はアルコール依存症で、フレンドリーだが常にいかがわしい計画を立てている。Michaelの母は釈放された後に新しいボーイフレンドと妹と住み、息子を誘おうとしない。叔母はゲイの彼をかばうために同居させているようだが、彼女にしてもMichaelを守り切ることはしない。男子生徒よりも遥かに背が高いことを気にするBunnyは自分に魅力がないことを悩み、Michaelはネットでみつけた年上の男性たちと性的な関係を持つようになる……。

これは、ゲイの少年Michaelのナレーションで綴られているが、彼の成長物語であると同時に、Bunnyのストーリーでもある。白人女性のRufi Thorpeがゲイの少年の視点で小説を書けるのかどうか、また書いていいのかどうか。それは、2020年現在のアメリカで話題になっている「文化盗用(Cultural appropriation)」にも関連する疑問である。

私自身も当事者ではないが、Thorpeが描くMichaelの視点や心情にはとても説得力がある。「普通」とみなされている身体 やセクシュアリティを持たないティーンが普通の高校で普通に生きることは難しい。経済的な背景や家族の事情、セクシュアリティは異なるが、「普通になれない」という点でMichaelとBunnyは似たもの同士だ。けれども、子供のような視点やピュアな衝動で行動し、周囲の者や運命から裏切られ続けるBunnyと、Michaelは異なる選択をする。

シングルマザーの家庭で育ち、東海岸の超名門寄宿高校で学び、16歳で大学に入学した作者も「普通」の青春時代を送っていないことが想像できる。その超名門高校では、才能がある貧困家庭の子どもに学費無料のスカラシップを与えるのだが、Thorpeもその一人だったとしたら、きっとMichaelやBunnyのような疎外感を抱いたことだろう。

もし異なる親を持っていたら、まったく異なる輝かしい人生を生きたかもしれないBunnyのことを思うと切なくなるが、同時に彼女のピュアな生き様に心動かされる。ユーモアのセンスもある優れた文章であり、つい周囲の人に勧めたくなる本のひとつだ。

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