作者:Lydia Millet
Hardcover : 240 pages
ISBN-10 : 1324005033
ISBN-13 : 978-1324005032
Publisher : W. W. Norton & Company
発売日:May 12, 2020
適正年齢:PG15
難易度:8/10
ジャンル:文芸小説/スペキュラティブ・フィクション
キーワード:気候変動、災害、こどもの聖書、科学、子供の視点
文芸賞:ピューリッツァー賞最終候補/全米図書賞最終候補
森と湖に隣接した由緒ある大邸宅にいくつかの家族が集まり、夏のバケーションをしていた。冒頭は昔話か寓話のような世界を想像させる語り口だが、じきに携帯電話やAmazonプライムなどが出てきて、現代または近未来のアメリカなのだと気づく。
大人たちは社会的にそこそこ認められる達成をしているようだが、毎日酒やドラッグに溺れている彼らを恥ずかしく思っている子供たちは、互いの間で自分の親が誰なのか曖昧にしていた。ナレーターはティーンの少女Evieで、頼りにならない両親の代わりに9歳の弟Jackを常に守ろうとする。Jackは、大人のなかのひとりの女性がくれたという「子供用聖書」に読みふけり、ノアの方舟のように動物を集めていた。
世話はしないのに干渉だけはする親たちにうんざりした子供たちは、ハリケーンのさなかに親の車を拝借してメンバーのひとりの家に行くことにする。Jackが集めた動物たちも一緒に。ところが途中で迷ってしまい、彼らはフィラデルフィアの大きな農場にたどり着いた。大金持ちの女性が趣味で所有しているという農場で、子供たちは管理人の許可を得て住み着く。だが、嵐は大規模になり、都市が破壊され、蚊と疫病が蔓延し、交通と物流がストップした。そして、食料品を狙った残酷な集団が農場を襲う……。
作者のLydia Milletは環境政策の修士号を持ち、アリゾナ州の砂漠に住んでプロの作家として執筆活動をしながらCenter for Biological Diversity(生物多様性センター)にも務めている。この小説でも気候変動が重要なテーマになっているが、「地球を守らねばならない」といったストレートなメッセージを突きつけているわけではない。寓話のように距離を置いた語りの中で、うっすらとした不安がじわじわと本物の恐怖になっていく。親の世代が好き勝手にやったツケが気候変動とそれがもたらすディストピアという形で、まるで「あぶり出し文字」のように浮かんでくるというやり方だ。
一番幼いJackが子ども用聖書を解読しようとするところも、この小説が読者に与える暗号に読める。Jackは、神=自然、キリスト=科学だと解釈するが、Jackが考える救いは本当にあるのかどうか。
読んでいるときに思い出したのは、How I Live Now というYA小説だ。あれは環境問題ではなく戦争で大人の世界が破壊されたのだが、無責任な大人の世代によって壊れた世界を子供たちが受け継ぐ不条理さと不安感はよく似ていると思った。