作者:Karla Cornejo Villavicencio
Publisher : One World (March 24, 2020)
Hardcover : 208 pages
ISBN-10 : 0399592687
ISBN-13 : 978-0399592683
適正年令:高校生以上
難易度:7/10
ジャンル:ノンフィクション/ルポ/回顧録
キーワード/テーマ:アメリカの不法滞在移民、ルポ、DACA (Deferred Action for Childhood Arrivals)、Relief and Education for Alien Minors (DREAM) Act、Dreamers、若年移民に対する国外強制退去の延期措置、Fictional Nonfiction
賞:全米図書賞最終候補、ニューヨーク・タイムズ紙Best Books of 2020の1冊、オバマ大統領の2020年推薦書
2020年これを読まずして年は越せないで賞
アメリカにはundocumented (公文書に記録されていない、つまり不法滞在の)移民が数多く存在する。その中には、幼い頃に両親がアメリカに連れ込み、アメリカで育った者がいる。アメリカ育ちの彼らにとってここ以外の故郷はないのだが、見つかったら見知らぬ国に「国外強制退去」されることになる。これらの若者を救済するため、オバマ大統領は2012年に「若年移民に対する国外強制退去の延期措置(DACA)という移民政策を導入した。だが、2017年1月に大統領に就任したトランプは、9月にはDACAを撤廃した。その後、連邦最高裁は撤廃案を棄却したが、トランプ政権はいまだにDACAを廃棄するために戦っている。
ルポと回顧録が混じったようなThe Undocumented American の作者Karla Cornejo Villavicencioは、4歳か5歳のときに両親に連れられてエクアドルからアメリカに移住した「不法滞在移民」のひとりだ。ハーバード大学のシニアだった2010年(DACAが作られる2年前)に匿名で「私はハーバードで学ぶ不法移民だ」という記事を書いて注目を集めた。このとき、多くの出版社が本の契約をオファーしたようだが、彼らが求めるのがステレオタイプのお涙頂戴移民ストーリーばかりなのでCornejo Villavicencioは拒否してきた。この本は、彼女に自由に書かせてくれる文芸エージェントに出会ったために誕生できたのだ。
それらの経緯について作者は「まえがき」に匹敵するIntroductionに書いているが、トランプが大統領選挙に勝つことが判明した夜、美しく着飾ってタイタニック号と一緒に沈んだ女性への尊敬から同様に着飾った描写からも、ステレオタイプの不法移民物語ではないことがわかる。彼女が目指したのはニルヴァーナのSmells Like Teen Spiritの衝撃のようだが、それを実現できたかどうかは別として、なかなかロックなノンフィクションだ。
Cornejo Villavicencioが紹介するのは、普通のアメリカ人には見えない不法移民の姿だ。彼女が同じ不法移民だからこそ、見せてくれたのだろう。2001年の同時テロの後に危険な埃を吸いながら清掃処理をしてがんやその他の健康被害を受けている女性、同時テロの時に(たぶんツインタワーにピザを配達していて死んだ)19歳の若い男性、そして、住民の45%が貧困層であるミシガン州フリントの不法移民コミュニティが見せるのは、「努力して成功した移民」の英雄物語ではない。
また、作者は老いていく不法移民の現実にも触れている。ラテン系の男性の問題は「仕事での成功」という男らしさの証明を失うことだ。そのミッドライフクライシスのために、不倫をしたり、酒に溺れたりする。だが、一方で、夫という重荷から解放された年配の女性たちが人生を謳歌し始めるコントラストも興味深い。
この「ノンフィクション」はノンフィクションだが、登場人物に対する作者の想像が文芸小説のように加えられている。この少し風変わりなスタイルも、私には魅力的に感じた。
作者は不法移民でありながらハーバード大学を卒業し、イェール大学の博士号課程で学んでいる。だが、アメリカで産まれたためにアメリカ人として自由に人生の選択をできる10歳年下の弟は、勉強もしないし、経済的に親の面倒もみようとはしないようだ。南米出身のラテン系の人々の間には男女での期待も異なるようだが、重荷がないというだけで人生はこれほど違うのかと思わせる。作者がその不公平さに正直に憤っているのも、この本の魅力かもしれない。