洋書ファンクラブ、年末恒例行事「これを読まずして年は越せないで賞」受賞作が決まりました。
これまではツイッターのライブで行っていたのですが、今年はZoomのライブで行いました。参加者の方のプライバシー保護もありますので映像を公開することはできませんが、決定した部分の会話を少しだけですが抜粋のかたちでご報告いたします。
2時間以上の会話だったので、楽しさを全部お伝えできないのは残念ですが、来年ぜひご参加ください。
児童書部門
●候補作
Hollowpox (Nevermoorシリーズ #3)
●メンション
The Trial of Apolloシリーズ by Rick Riordan
The School of Good and Evilシリーズ by Soman Chainai
受賞作を決めるときの審査員コメント
Y(渡辺由佳里):パンデミックで家に閉じこもって友だちとなかなか会えない子供たちの心境を考慮し、今年は「学び」よりも「現実を忘れて空想の世界で楽しめる」ということを重視して選びました。そういった意味で、私自身が楽しかったNevermoorをこの部門の勝者に選びたいです。
H(春巻まやや/岸田麻矢):すごいなあと思ったのは、(シリーズ第3部のHollowpoxを)書いているときには、世の中がこんなふう(パンデミックやアメリカでのBLM運動の高まり)になるとは思っていなかったはずなんですよね。でも、この中には伝染病の話も出てくるし、差別の話もでてくるんです。
M(角モナ):私は実は、We Dream of Spaceって言いたかったんです。設定は大好きなんですけれど、終わり方が。。。大人は自分でいろいろ想像できるのですが、具体的に「あれとこれはどうなったのか?」とモヤモヤしたまま終わるんですよね。惜しいという気持ちばかりが残ります。
受賞作
YA(ヤングアダルト)部門
●候補作
●メンション
審査員コメント
Y:モナさん、紀伊國屋書店さんではどんなYAがよく売れていますか?
M:最近YAが多すぎる気がするんですよね。何を読んでいいのかわからなくなってしまった感じです。読者もわかれてきています。今年書店で予想外によく売れたのは、Twilightのエドワードの視点から書いたMidnight Sunとか(3人の苦笑)、The Hunger Gamesの過去を描いたThe Ballad of Songbirds and Snakesとかです。あと、候補になっているようなミステリが売れるようになってきたという感じです。
H:最近YAミステリ多いですよね。
M:YA流行の最初はファンタジーばっかりだったんですよね。お姫様が敵の国の誰かと恋をするとか。最近はミステリを含む現代小説が増えていますし、アジア系アメリカ人作家のものが増えてますね。
Y:少し前までは、白人の名前でないと売れないからという理由で典型的な白人のペンネームをつけたアジア系のベストセラー作家とかいました。女性の名前だと売れないからという理由で名前の部分をイニシャルにしたり、お男性名をつけたりするのと同様です。けれども最近は、読み方がわからないような名前の作家も堂々とそのまま売って、ベストセラーになっています。そういう変化は嬉しいものです。
Y:You Should See Me in a Crownは、人種マイノリティでレズビアンの女の子が大学の奨学金を得るために「プロムクイーン」のコンテストで戦うという内容です。過去のアメリカなら「チアガールをやっている美人の白人の女の子」というのが「プロムクイーン」のステレオタイプなのでそこが新鮮です。これまでLGBTQのテーマを取り扱った小説には悲劇的で重いものが多かったのですが、それがまったくない娯楽作品なんですよね。
H:そうなの。主人公の女の子と登場人物の男の子の友情とかも扱っているし。これまでYA小説で特別扱いにされてきたLGBTQのテーマがごく「あたりまえ」のことになっているところがいいです。
Y:A Good Girl’s Guide to Murderはイギリス人作家のデビュー作だと思うのですが、イギリス版とアメリカ版で場所とか使っている単語とか異なるんですよね。最初知らなくて、洋書ファンクラブの読者から指摘されて読んだら違ってびっくりしました。
H:よく出来た作品ですよね。You Should See Me in a CrownかA Good Girl’s Guide to Murderのどっちかだと思うんですよね。どっちにしようかしら?
M:Murderのほうはよく出来ているんですよね。……大人になってから読んで良かったと思いました。(YAジャンルで高校生読者対象だけれど)ティーンのときに私これ読めたかなって。
H:そうですね。trigger warning(トラウマを呼び起こしそうなシーンがあるという事前警告)みたいなのがあるかもしれない。
Y:高校生が読むとしたらCrownのほうかなという気もします。ただ、男の子が読むとしたらどうなんだろう?という疑問があります。女子でも、男子でも、大人でも読んで面白いということならMurderですね。
受賞作
ノンフィクション部門
●候補作
Undocumented Americans (春巻さん推薦)
●メンション
Fanocracy (フォーブス誌の2020年ビジネス書トップ10に選ばれました)
Stamped by Ibram X Kendi and Jason Reynolds
Too Much and Never Enough by Mary L. Trump
Entangled Life by Merlin Sheldrake
No Filter by Sarah Frier
審査員コメント
Y:トランプ大統領に関する本は沢山出ているのですが、大統領について書かせるとしたらボブ・ウッドワードが第一人者だと思います。このRageはたぶん将来にも教科書的に読まれるのではないかと。ところで、春巻さんご推薦のUndocumented Americans読んでみたら、すっごく面白かったです。ロックンロールで(笑)
H:日本の移民についても、こんな感じの本が出てくれたらいいなと思います。書き方がすごく面白いんです。
M:オバマ大統領の回顧録は、文章がさすがに上手いし、お薦めなんですけれど、長いんですよね。
H:そうなの。こんなに長いのに半分なんですよね。えーっと思っちゃった。
M:長さでへこたれる人がいるんじゃないかと。。。
H:オーディオブックがけっこういいんですよ。本人が読んでいるので。
Y:アメリカでは、この暗い社会で落ち込んでいるときにオバマの声に癒やされたという人がいます。オバマの本もいいのですが、私はCasteを推したいです。BLMをよく理解せずに攻撃してくる人がいますが、この本に書かれていることを全部読んでいただきたいです。全部網羅されていますから。そういう意味で、ぜひ邦訳されてほしい本です。
*イベント参加者からの支持も多かった本です
受賞作
フィクション(ジャンル小説・大衆小説)部門
●候補作
The Invisible Life of Addie LaRue
●メンション
Thin Air by Lisa Gray (春巻さん推薦)
Network Effect by Martha Wells(このシリーズについては語りますが、作品のレビューは来年になるかも)
Home Before Dark(春巻さん推薦)
審査員コメント
H:たぶん私少数派だと思うのですが、Piranesi。すごく面白かったから。でも、一般的にお薦めかと言われるとどうかな、という感じ。難解かな、と思ったけれど、章が長くないし。謎が謎を呼ぶ展開なのだけれど、すぐ解決するし。
M:表紙とか綺麗なんですよ。ハードカバーですが、ページ数が少ないので持ちやすいのもいいですね。内容と関係ないですけれど(笑い)
Y:私の選択はLong Bright Riverなんです。アメリカの警察への不信感をちゃんと描いているし、切ない感じもあるし。オバマ大統領の選択書でもあります。
H:毎年悩ましいジャンルですよね。
M:Piranesiって、ここで選ばれなかったら他で選ばれない作品だと思うんですよ。他の本はどっかで取り上げてもらえると思うんです。
Y:Piranesiは好きなんですが、どうせ選ばれないだろうと思って勝手に却下していたところがあるのですが、お二人がお好きだというところですでに選ばれる資格があるかも。それに、日本人読者にはかえって好かれそうな作品ではありますね。
M:(実在の)Piranesiの作品集とかと一緒に読むとさらに面白いかも。
YMH:洋書ファンクラブらしさを出すということで、Piranesiにしましょう。
受賞作
フィクション(文芸小説)部門
●候補作
●メンション
Dearly by Margaret Atwood
Homeland Elegy by Ayad Akhtar(大統領選の前に読むのはしんどい内容だったので後回ししていた本。2021年に後回し)
Hamnet by Maggie O’Farrell (2021年のこれ読まに後回し)
In an Instant by Suzanne Redfearn (春巻さん推薦)
審査員コメント
H:Shuggie Baineは読むのが辛かったです。
Y:『アンジェラの灰』っぽい雰囲気もありますよね。
M:The Vanishing Halfは、後半加速していって面白くなりますね。
Y:Nothing to See Hereは、子供が燃え上がる以外はふつうの小説なんですよね。
H:そう。しんみりしていいお話。同じ作家の短編集にも人体自然発火現象が出てくるんですが、どうも人体自然発火が好きな作家みたいですね(笑い)。
Y:Transcendent Kingdomもオバマ大統領の選書のひとつなんですが、それはアメリカの移民や社会問題を多く網羅しているという点もあると思います。
H:これは、同じ作者の前作Home Goingがすごかったので、それに比べるとインパクトが少ない感じです。
M:書店でもHome Goingのほうが売れていたと思います。
Y:さて受賞作どうしましょう?
H:一般的にお薦めするならFredrik BackmanのAnxious Peopleが無難ですけど。個人的には子供が燃える話がすごく好き。
M:インパクトがあるお話のほうがいいかも。Midnight Libraryとかいいお話なんだけれど、あんまりインパクトはないですよね。
Y:そうですね。Anxious Peopleも同様です。Backmanの作品のなかではBeartownとか(その続編の)Us Against Youのほうがいい作品ですし。Deacon King Kongもぶっとんだ面白い作品ですけれど、Nothing to See Hereの微妙な面白さを読んでもらいたいという気もします。
H:この主人公も大好き。
Y:地味だけれど、いい作品。これ読まだから、こういう作品が受賞作になっていいと思う。
H:Shuggie Baineはブッカー賞も取ったし。
Y:他の候補作はいろんなところで大きく話題になっているから、私達独自の味を出すという意味でもNothing to See Hereでどうでしょう? 3人みんな面白いと思ったことだし。
受賞作
2020年これ読ま大賞受賞作
審査員コメント
Y:私の中では決まってます。
H/M:え〜っ?
M:自分の中では決まっているんですけれど。。。
Y:私は決めているんで、言うのは最後にします。
M:私はCasteです
Y:私も!…あっ、言っちゃった
(全員大笑い)
H:Casteかな〜とちょっと思ったりして。
M:でも、まやさんの意見で変わったりするかも。
H:いやいや。でも、大賞でしょ〜。この中ではやっぱりCasteだと思う。
M:Casteは文章がノンフィクションぽくないといったら誤解されるかもしれないけれど、物語みたいに読みやすいんです。それなのに、すごく重要な史実が出てくるんです。
H:私はキンドルでハイライトを引いていたんですが、ハイライト引きすぎて意味がなくなっちゃたという…。
Y:今年は、ノンフィクション以外には強く推すものがなかったんですよね。他のジャンルではそれぞれに良い作品が沢山あるのですが、突出したものがなくて。まさかA Good Girl’s Guide to Murderにするわけにはいかないでしょ、みたいな(笑い)。だから大賞の選択は簡単でした。
審査員
Twitter:@YukariWatanabe
このブログ「洋書ファンクラブ」の主宰者

某大型書店の洋書仕入部門で働く会社員。 神戸のインターナショナルスクールに通っていたころから洋書が好きで 読んでいるけど、最近しみじみと「読書は体力だ」と思います。 女性が主人公になって活躍する小説が好み
2020年これを読まずして年は越せないで賞
YA(ヤングアダルト)部門『A Good Girl’s Guide to Murder』読了しました。
受賞の看板に偽りなし!の面白さでした。
読み始めは、むかし流行った三毛猫ホームズシリーズの令和版?という印象でしたが、読み進めると実に骨太なミステリーで、練りに練られたプロットに何度も「えっ!?」と声が出てしまうほど驚かされました。
Windowsパソコンの設定画面からプリンターの印刷履歴を探す場面(Doc1.docというファイル名が怪しい..)や、スマホのアプリ操作の細かい描写のリアリティが、ティーンエージャー探偵のスリル満点の非日常を際立たせ、物語にぐいぐいと引き込まれました。
男性で(じゅうぶん)大人の私が、ひじょうに楽しめたYA作品でした!
Isaoさん
お楽しみいただけたようで、嬉しいです!
これ、最初はシンプルなミステリに思えるのですが、読んでいくと「すごい!」とうなるんですよね。
YAにしておくのはもったいないと思っていたので、こうして読んでいただけてよかったです。