多元的宇宙がテーマだけれど奥行きに欠けていて残念だったSF The Space Between Worlds

作者:Micaiah Johnson
Publisher : Del Rey
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0593135059
ISBN-13 : 978-0593135051
発売日:August 4, 2020
適正年令:PG15
難易度:7/10
ジャンル:SF
テーマ:Multiverse(多元的宇宙)、ドッペルゲンガー、LGBTQ+ロマンス、格差社会

 

時間が不明の未来の地球で、以前はセオリーでしか存在しなかった多元的宇宙が証明され、ある程度似ている多次元宇宙であれば、行き来することも可能になった。だが、深刻な問題もある。ひとつの世界に同じ人物が複数存在することができないのだ。多次元世界を旅できるトラベラーは他の多くの世界で死んでいる必要があり、エルドリッジ研究所が異なる宇宙でデータを収集するトラベラーとして雇用するのはそういった稀な人物だった。372の異なる宇宙で成人するまでに死んでいる若い黒人女性カラもそのひとりだ。

これらの多次元宇宙での社会は裕福な者が住むWiley Cityと貧困層が住むスラムのAshtownに分かれている。この宇宙でのカラは、エルドリッジ研究所に勤務する者としてWiley Cityに住む特権を持っているが、ほとんどの別の宇宙では彼女はAshtownで産まれて死んでいる。他宇宙の別の自分の死を目撃したことさえある。

カラのドッペルゲンガーたちの死に深くかかわっているのが、AshtownのエンペラーであるNik-Nikとその兄だ。カラは危険なトラベルをするうちに、彼らと自分の関係がこの世界に深く関わっているのを知る……。

 

「多次元宇宙」と「あちこちでよく死んでいるトラベラー」というキーワードだけで、読むのを楽しみにしていたSFである。2020年のGoodreadsのChoice Awardsの最終候補にもなっていたし、読者の平均評価も高い。だが、正直を言って期待はずれだった。

世界観がうすっぺらなところが私にとっては致命的だった。

SFやファンタジーだけでなく、フィクションはすべて作りごとだ。事実ではなくても説得力があれば、その世界は本物になれる。それが優れたフィクションの魅力だ。だが、このThe Space Between Worldsは設定に説得力がない。また、2つに分かれた階級社会も単純すぎる。スラムのAshtownを司るNik-Nikというエンペラーについても、まるでLAなど小さな地域のギャング小説を読んでいるような感じだ。

ビールを注文したらアルコール抜きビールが来たような気分である。

カラ(女性)、Nick-Nick(男性)、カラのハンドラーのDell(女性)が、それぞれの宇宙で微妙に異なるというところがこの小説の面白さであるはずなのだが、そこが面白くならない。なぜなら、どんなに変化してもキャラクターが二次元的なままだからだ。カラの思考回路はまるでティーンだし、人間の複雑さとしての愛、執着、残虐性なども多次元宇宙にしては多面的ではないし、奥行きも深くならない。

ただし、これらは私の個人的な感想であり、アメリカの若い読者は総合的に良い評価を与えているので、「洋書ファンクラブ」の読者の中にも面白いと思う人はきっといるだろう。

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