作者:Alix E Harrow (The Ten Thousand Doors of January)
Publisher : Redhook (October 13, 2020)
Hardcover : 528 pages
ISBN-10 : 0316422045
ISBN-13 : 978-0316422048
発売日:2020年10月13日
適正年令:PG15+(性的コンテンツ、バイオレンスあり)
難易度:新レベル8/10(文芸書を読み慣れている人のほうが読みやすい文章)
ジャンル:ファンタジー/文芸小説
キーワード:魔女狩り、女性参政権運動、セイラム、魔女、魔法、LGBTQ+ロマンス
かつて世界には魔法が存在し、魔女はパワフルな存在だった。だが、19世紀後半のアメリカでは違法になっていた。多くの魔女が焼き殺された後、魔女は死に絶えたか、魔力を失ったと思われていた。
1893年、新たに出来た町「ニュー・セイラム(New Salem)」では婦人参政権運動が高まっており、ニュー・セイレム婦人会がデモ集会を行っていた。民話を集める情熱を持つ大学の図書館司書のビアトリス・ベラドンナ・イーストウッドは、意図せずに魔女の呪文(witch-ways)を使い、空に塔を表してしまう。それをきっかけに、長年別れ別れになっていたイーストウッド三姉妹が再会した。
次女のアグネス・アマランスは外面的な美貌とは裏腹にタフで冷たい心を持っている女工。暴力的な父親と最後まで家に残っていた末娘のジェイムズ・ジュピターは父を殺して家を出たところだった。3人はそれぞれに姉や妹に裏切られたと信じ、恨みを抱いていた。再会しても信頼はしなかったが、見えない絆や「魔女の呪文」を取り戻すという目的で繋がる。
イーストウッド姉妹は婦人参政権運動を行っているニュー・セイレム婦人会に加わるが、ジェイムズ・ジュピターはラジカルな行動がもとで会から追放される。それを機に姉妹はThe Sisters of Avalonという結社を作った。婦人参政権運動をしている婦人会に属しているのは裕福な階級の女性である。だが、The Sister of Avalonは、労働者階級の女性でも加わることができるものだ。また、この結社の究極の目的は、失われてしまったと信じられている魔女の呪文を取り戻すことだった。
同時期に、ニュー・セイレムでは疫病が流行りはじめていた。そして、新たな魔女狩りが始まろうとしていた……。
私は有名な(悪名高き?)セイレムの魔女裁判が行われたマサチューセッツに住んでいるので、Alix E HarrowのThe Once and Future Witchesはことに興味深かった。魔女狩りの背景には、当時のアメリカのニューイングランド地方を支配していたピューリタン(清教徒)の教えがある。「女性は生まれつき男性よりも邪悪であり、悪魔の誘惑に弱い」というのが当時の清教徒の考え方であり、有罪で処刑された者の8割が女性だった。このファンタジー小説には婦人参政権運動も登場するが、その運動での階級差別を描いているところも興味深い。
興味深いので調べてみたところ、初期に婦人参政権運動をしたのは高等教育を受けた女性だった。そうでなければ運動をする情熱を抱くこともできなかっただろうし、運動のために本を読んだり、文章を書いたりすることができなかったのだから仕方がないとは思うが、現代の読者にとっては「普通の女性が女性の将来を変える」というHarrowの小説のコンセプトのほうが受け入れられやすいだろう。
また、長女のビアトリスの恋愛の対象が黒人女性であることも、現代の読者にアピールする部分だ。
リズムと音が聞こえてきそうなリリカルな文章も魅力で、特に若い女性にお薦めのファンタジーである。