作者:Frances Hardinge (The Lie Tree, A Skinful of Shadows, The Lost Conspiracyなど)など)
Publisher : Amulet Books
刊行日:April 14, 2020
Hardcover : 432 pages
ISBN-10 : 1419743201
ISBN-13 : 978-1419743207
対象年齢:中学生から高校生
読みやすさ:7
ジャンル:YAファンタジー
キーワード:海の神々、宗教、モンスター、有害な友情、サバイバル
島の人々を脅かしてきた神々が死んだ。理由は誰も知らないが、50年前に突然殺し合いを始め、すべての神が死に絶えたのだった。
孤児のHarkは生き残るためにあらゆることをしてきた。海に潜って死んだ神の遺物を探し出して売るのもそのひとつだ。多くの孤児は生き残ることができないが、Harkを助けてきたのが嘘や言い逃れができるストリーテラーとしての才能だ。身体が小さくて弱かった幼いときに守ってくれたJeltにも感謝している。Jeltのほうも、その恩を決して忘れさせない。Harkがやりたくないことであっても「俺はお前のためにいろんなことをやってやったじゃないか」という口調で説得する。
いつものようにJeltから押し付けられた危険な仕事をしている時にHarkは捕らえられてしまう。刑として年季奉公人としてオークションにかけられたHarkは、残酷な主人の奴隷になることを恐れてストリーテリングの才能を発揮する。そこで女性科学者に買われてほっとするが、科学者がHarkを買ったのは嘘つきの才能を評価したからだった。
Harkの仕事は、かつて神々に仕えた老いた宗教者たちを世話しながら神についての情報を得ることだった。清潔な服を着て十分な食事を取ることができる生活に満足していたHarkは「外部の者と交流しない」という厳しいルールを守るつもりでいた。けれども、捕らえられた時に助けようともしなかったJeltが現れて再び困難な仕事を押し付けた。断りきれないHarkはJeltと一緒に潜った海で鼓動している心臓をみつけた。
死んだ神の一部だと思われるその心臓は、不思議な現象を引き起こす。その影響でJeltは変貌していく。それぞれに異なる秘密を持つ科学者や老いた宗教者の間でHarkは悩みつつも親友を救おうとする……。
Frances HardingeのYAファンタジーは、アメリカでベストセラーになるタイプのYAファンタジーとはまったく異なる。アメリカでベストセラーになるYAファンタジーには、ティーンのヒロインをめぐるロマンスが必ず含まれている。というか、それが中心である。HardingeのYAファンタジーにはそんなものはない。彼女の本の魅力は独自の世界観だ。本当にそういう世界が存在すると信じさせてくれるほどリアリスティックであり、深みがある。中学生から高校生が対象のYAファンタジーなのだが、私の周囲のファンを見ると、読者には大人のほうが多いかもしれない。The Lie Treeは、児童書でありながら2015年に英国のコスタ賞の「Costa Book of the Year」を受賞したほどだ。
このDeeplightではかつて海を支配していた神々の正体が重要な部分なのだが、登場人物それぞれにも味がある。誰ひとりとして完璧に善良ではないし、悪でもない。HarkとJeltの友情にしてもそうだ。
Hardingeのファンタジーを読むためには、その世界にどっぷりとはまりこむ時間が必要なので、それだけが欠陥といえるかもしれない。