作者:J. Michael Straczynski
Publisher : Gallery/Scout Press
刊行日:July 6, 2021
Hardcover : 304 pages
ISBN-10 : 1982142588
ISBN-13 : 978-1982142582
適正年齢:成人向け(死を美化する傾向がある思春期にはおすすめできない)
読みやすさ:7
ジャンル:現代小説
キーワード、テーマ:自殺願望、集団自殺、ロードトリップ、人間の繋がり
金持ちでも貧乏でもない普通の家庭で育ち、トップクラスではない大学で学んだ青年Markは作家を目指すが出版社からは次々と拒絶される。親の時代なら大学教育を受けたら良い仕事に就くことができたが、今の時代の若者は普通の大学に行っても就職口はない。そのうえ学費による巨額の借金を抱えている。30歳を目前に将来に絶望したMarkは、ある大きな企画を立てた。古い観光バスを購入して改造し、自殺願望者をネットで募集して一緒に最後のロードトリップをするというものだ。Markが住んでいるフロリダから出発して参加者をピックアップしながらアメリカを横断する。そして目的地のサンフランシスコで日没が美しい崖を見つけてバスごと奈落に落ちるという計画だ。退役軍人のDylanは目的を知らずにネットでのバス運転手募集に応じたので躊躇するが、Markや志願者たちには関わりにならないという条件で仕事を引き受けた。
Markのロードトリップに参加する条件は、1)自殺に本気であること、 2)自殺したい理由とそこに至る個人的な背景をプライバシー保護されたネット上に書き続けること、 3)遺族がその遺言の発表を阻止する可能性を妨げるために、内容の所有権の放棄に同意すること、などだ。
参加してきたのは、稀な病による激しい疼痛で普通の生活がまったくできなくなった女性、疾病で青い肌を持つために差別されつづけた末期の青年、双極性障害の自分に嫌悪感を抱いている女性、この現実ではなく自分が心の中に作り上げた理想郷に住むことを夢見る青年、肥満であるためにいじめられ続けた女性、など若者ばかりであり、高齢者は65歳の寡夫ひとりだけだ。背景も性格もまったく異なる者が初めて会って旅をするのだから摩擦も生じる。特に双極性障害のLisaはよく問題を起こすが、それでも参加者たちは自分たちの仲間として受け入れていく……。
多くの読者が高く評価している注目の作品らしくこの小説のタイトルをあちこちで見かけて気になっていた。「映画『The Breakfast Club 』と 小説(あるいは映画)のThe Silver Linings Playbook(拙著『ジャンル別 洋書ベスト500』に収録)を合わせたような作品」という宣伝文句に惹かれて読んでみることにした。「集団自殺」という暗いテーマで多くの読者を「感動」させている理由を自分で確かめたかったのも読んだ理由のひとつだ。
内容は、アドミンと参加者のテキストメッセージ、Eメール、ボイスメール、日記で綴られていくので、そこがとても現代小説らしい。自殺をテーマにしているが、笑いを誘う箇所はあちこちにある。他の読者が「美しい」「泣いた」と評価しているとおぼしき箇所もある。参加者たちが予期していなかったロマンスに出会うところは心温まるといえるだろう。
この小説には良いところは沢山あるし、人物のやり取りが興味深くて最後まで飽きなかったのも事実だ。エンターテイメントとしてはよくできた小説だと思う。作者のJ. Michael Straczynskiは 「Babylon 5」や「Sense8」のクリエーターで、映画「Changeling」の脚本家でもある。だから、人々を物語に引き込む才能はこの小説でも発揮されている。けれども、私は星5つの評価は与えられなかった。なぜなら、この本は最終的には自殺をエンターテイメントにしているからだ。最後に自殺ホットラインの情報が付け加えられているが、言い訳程度だとしか思えなかった。「自分には生きている価値はない」という暗い思いに取り憑かれていた時期がある私だからこそ、いくつかの登場人物の自殺する理由が見過ごせなかったし、死を美化する部分も許せない気がした。登場人物のひとりが、「自殺を決めたら後戻りしない」という意志を表現するときに特攻隊を使ったジョークを言ったのも私にはとても嫌だった。若い女性の口を使っているが、これは第二次世界大戦終了から10年も経っていない時に生まれた年配の作者の頭の中で生まれたジョークだ。この年代の作家なのだから特攻隊の青年たちが自分で死を選んだのではないことくらいは知っているはずだ。そういった軽さも私は受け入れ難かった。
この本は、現在の自分に満足していて、幸せな人だけが読むべきだと思う。手に取る前に、そういう類のエンターテイメント小説だということは心得ておいてほしい。
オーディオブックとキンドル版を両方試してみた。多数の声優が演じているオーディオブックはそれぞれの個性がよく出ているし、ボイスメールもいい。だが、テキストメッセージやEメールの部分はキンドル(あるいは紙媒体)のほうがわかりやすい。どちらもそれなりの良さがある。