Sally Rooneyの新作は、望まず名声を得た若き女性作家の本音が読めるオマケのほうが小説そのものより面白い。 Beautiful World, Where Are You

作者:Sally Rooney (Normal People)
Publisher ‏ : ‎ Farrar, Straus and Giroux
刊行日:September 7, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 368 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0374602603
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0374602604
適正年齢:一般(セックスシーン描写のレベル:1)
読みやすさ:8(文章はシンプルだが、会話の意図などを理解するためにはやや読解力が必要)
ジャンル:文芸小説、現代小説
キーワード、テーマ:アイルランド、ミレニアル世代、社会問題、恋愛、友情、若き女性小説家

Sally Rooneyの前作Normal Peopleは、ブッカー賞、コスタ賞など多くの賞でノミネート、あるいは受賞し、まだ20代の若い女性だったRooneyは一躍世界から注目されるスター作家になった。Normal PeopleはBBCとHuluが共同でドラマ化し、経済的にも成功している数少ない作家のひとりである。そのRooneyの最新作(3冊目)であるBeautiful World, Where Are Youは、多くの意味で話題になっている。

主人公のAliceははSally Rooneyを連想させるアイルランド人の若い女性作家だ。作品がドラマ化されて経済的にも成功している。だが、作品の成功の後で精神的な問題を抱え、しばらく入院していた。内向的なAliceにとって友達と呼べるのはEileenとSimonだけだ。Eileenとはお互いに親友と認める親密な間柄だったが、精神的なブレイクダウンの頃から2人の間には心身の距離ができている。

AliceはEileenとSimonが住んでいるダブリンから離れた町で大きな屋敷を借りて住み、デートアプリ(主な目的はhook-up)のTinderでFelixと出会う。倉庫で肉体労働をするFelixは、経済的にも成功している有名作家のAliceに最初から反感と敵意を抱いているようだ。だが、Aliceはローマでの本のプロモーションの旅にFelixを誘い、彼もそれを受け入れる。いっぽう、15年前から互いに惹かれ合っているEileenとSimonは付かず離れずの関係を繰り返す……。

気候変動が深刻化し、経済格差が広まっている現在の社会で、ミレニアル世代は自分たちが何をするべきなのか混乱している。そのさなかに恋愛や性欲や友情など重要ではないことに頭を悩ませる自分たちに疑問を抱えながらも、「これが生きるということではないか」と自分に言い聞かせているような作品である。

興味深いのは、私のような高齢層の読者がこの小説を寛容に受け止めているのに対し、ミレニアル世代の読者が非常に厳しい評価を与える傾向があることだ。

確かに読んでいて呆れることが多かったし、期待はずれだったのは事実だ。

Aliceをはじめ4人の主要人物の誰ひとりとして好感を抱くことができない。彼らはそれぞれに自分の置かれた環境に満足せず、愚痴を言い、自分以外の人々に対して嫉妬や反感を抱いている。誰でも通り過ぎることだが、長編小説でずっと読まされるのにはうんざりせずにはいられない。また、Felixは完璧にDV(ドメスティック・バイオレンス)加害者候補だ。というか、すでに心理的にはDV加害者である。自分自身の努力で成功した若い女性が社会的な通念から「自分にはその価値がない」と後ろめたく思うことがよくあるのだが、DV加害者の男性はそのあたりを嗅ぎつけて「自分だけはお前のためを思って正直な意見を言ってやる」的な態度でひどい言葉を投げつけ、じゃけんに扱う。これに対してのRooneyの「オチ」があるはずだと思って待っていたのだがなかった。そこで私はRooneyの作家としての才能まで疑うようになってしまった。

Rooneyの文章力は疑いなく優れている。

けれども、ミレニアル世代の迷える人間関係を描くことから卒業するためには、やはりもう少し生きていろいろ体験してもらうことが必要なのだと思う。でないと、DV被害者的な心理しか描けない作家になってしまうではないかと心配している。

ただ、面白くなかったかというと、そうでもない。Aliceの視点を通じて、Rooneyは作家としての自分をかなり露呈していると感じた。そこが私にとっては一番興味深かった。

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