カルトに惹かれる人間心理を言語学の視点で描いたノンフィクション Cultish

作者:Amanda Montell
Publisher ‏ : ‎ Harper Wave
発売日:June 15, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0062993151
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0062993151
対象年齢:一般
読みやすさ:7
ジャンル:ノンフィクション
キーワード、テーマ:カルト、宗教、ビジネス、フィットネス産業、言語、ニュースピーク

「カルト」という言葉でたいていの人が連想するのは、カルト宗教集団だろう。日本ではオウム真理教、アメリカではPeoples TempleHeaven’s Gate、 The Manson Familyなど多くの人々を殺したカルト集団が歴史に残っている。ことにPeoples Templeは未成年の子ども約300人を含む918人が「集団自殺」したことで知られているが、多くの者はリーダーの命令で意思に反して殺害されたことがわかっている。最近アメリカで話題になったのは、『ヤング・スーパーマン』のクロエ・サリバン役で知られる女優のアリソン・マックがメンバーだったと判明したセックスカルトのNXIVMだ。

Cutishの作者Montellは、幼い頃からCultに興味を抱いてきた。というのは、Synanonというカルト集団から逃げ出した父親から体験談を聞いてきたからだ。Synanonは、もとはドラッグ依存症のリハビリプログラムだったのだが、じきに抑圧的なカルト集団になった。父のCraigが14歳のときに彼の両親はSynanonに加わり、彼も強制的に集団に連れ込まれた。ここでは結婚しているカップルは別れさせられ、リーダーの命じた相手と再婚するしきたりだった。子どもたちは親から隔離された小屋に収容され、外の世界から隔絶されて公教育を受けることもできなかった。学ぶ情熱にかられたCraigは17歳のときにこの集団から逃げ出して化学者になり、大学教授にまでなった。

そんな父親の体験談を聞くのが好きだったMontellは、Synanon内で使われていた「The Game」とか「Love match」といった特殊な用語に気づいた。子どもの頃それに興味を抱いていた彼女は、大人になって調べたカルト集団がそれぞれに特殊な造語を使うことに注目した。カルト集団から抜け出した体験者を幅広く取材してわかったのは、それらが「既存の言葉を狡猾に再定義した言葉」だということだ。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に出てくるニュースピーク(Newspeak、新語法)のように、それぞれのカルトは独自のニュースピークを作っているのだ。ニュースピークは、個人が疑問を抱いたり、深く考えることをそこで止める役割も果たす。

「私なら騙されない」と思う人もいるだろうが、たいていのカルト集団は、表向きには個人の向上意欲や社会貢献への情熱を促す魅力的な存在なのだ。少なくとも最初のうちは。

Peoples Templeはもともとキリスト教に基づいた社会主義と社会正義を主張する集団であり、人種差別がない社会主義的ユートピアを布教していた。オウム真理教のように加わったヨガ教室で親切な人間関係に誘われ、いつの間にか組織に取り込まれてしまうケースも多い。NXIVMのようにハリウッドで成功するための自己啓発勉強会として勧誘するものもある。

そして、現時点では「カルト」と認定されていなくても、多くの犠牲者を出していて限りなくカルトに近い集団は数え切れない。宗教団体だけではない。ビジネスの分野にもカルト、あるいはカルト的な団体は数多い。

それらを分析する本はこれまで多く出版されてきたが、Montellの『Cultish: The Language of Fanaticism』は、言語学の点からカルトを分析している興味深い本だ。ニューヨーク大学で言語学を学んだ専門家であるだけでなく、カルト集団から逃げ出して学者になった父を持つ。1992年生まれのMontellからは、ネットでの情報過多の時代に育ったミレニアル世代ならではの鋭い観察力も感じる。

私の夫のデイヴィッド・ミーアマン・スコットは、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』という本を共著したほどの「グレイトフル・デッド」の熱狂的なファンであり、最近はファンダムに関する『Fanocracy』という本を娘と共著した。その彼ですら、「ファンダムとカルトの境界線は危うい」と言う。グレイトフル・デッドのファンの間でもファンの間だけで通じる言語があり、外部から見るとその熱意には宗教的な雰囲気すらある。デイビッドが書いた「When Fandom Turns Into a Cult」というブログを読んで興味を持った私は『Cultish』を読み、その後2人でファンダムとカルトについて語り合ってみた。

会話のトピックとしても面白いし、読みやすいので、軽く読めて興味深いノンフィクションを探している人におすすめ。

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