大スターになった若手詩人の「成長過程」を感じさせる詩集 Call Us What We Carry

作者:Amanda Gorman
Publisher ‏ : ‎ Viking Books
刊行日:December 7, 2021
Hardcover ‏ : ‎ 240 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593465067
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593465066
適正年齢:一般(PG12)
読みやすさ:6
ジャンル:詩
テーマ、キーワード:パンデミック、悲しみ、人間関係、歴史、言語、アイデンティティ

ジョー・バイデン大統領就任式に招かれて詩を読んだ22歳の若手詩人Amanda Gormanについては、本ブログニューズウィーク日本版でご紹介したことがある。本書は2021年末に刊行されたGormanの新しい詩集である。

本書は、Covid-19のパンデミックでshipwreck(難破船、挫折)状態になったヒューマニティの癒やしを大きなテーマにしており、それゆえに初期に”ship(船}”と relationship などの接尾語である”-ship”が説明されている。Gormanの詩は現代の若手の間でよく使われる”freeform poetry”のスタイルだ。伝統的なpoetryでは脚韻を使うが、freeformではそれがない。

Gormanは非常に才能がある若手作家であるし、現在では押しも押されもせぬ大スターだ。彼女の影響を詩を書く子供たちも増えているので応援したいと思っている。この本についても、そういう気持ちでハードカバーを購入した。

けれども、ここでは長年詩を愛してきた一読者として正直な感想を書かせてもらおうと思う。

伝統的な詩を学び、読んできたときに何度も繰り返し叩き込まれたのが、「beautyやbeautifulという単語を使わずにbeautyを表現せよ」という原則だ。悲しみを伝えるときにsadやsorrowという単語はもちろん使わない。そして、「余計な単語はとことん切り捨てろ」というものだ。

私はエリザベス・ビショップの”One Art”がとても好きなのだが、この詩を何百回も読んだにもかかわらず、読むたびに必ず涙が出る。「がんばって理解しよう」と努力しなくても、色や匂いがまじるリアルな情景が浮かび、心臓を素手で掴まれるように心を動かされるのが私にとって「優れた詩」である。そのテーマが愛であっても死であっても。

Gormanは脚韻は踏まないが、homonymicが好きでよく使う。homonymicは「同音異義語」と訳されるようだが、同音異義語だけでなく、発音や綴がよく似たものにも使われる。例えば下記の部分のYellowとFellowだ。

“Lost as we feel, there is no better / Compass than compassion” といった使い方もある。

そういう言葉遊び的なところは楽しいのだが、心動かされるようなビビッドなイメージを作ることに成功しているかどうかという点で首をかしげる箇所が多かった。たとえば、”The pain pulls us apart, Like lips about to speak”といったものだ。これはパンデミックのさなかの我々の心情と悲嘆について書いた詩のひとつだが、「心の痛みが我々を引き裂いている」という状況は現在米国の対立を見ると言いたいことがわかる。しかし、それを表現する「言葉を出しかけるときの唇のように」というのは前のフレーズのイメージを作ることにまったく役立っていない。少なくとも私にとっては。”Like a soft bird”とか、安易な選択に感じる表現が気になって詩そのものに感情的に入り込むことが困難だった。

また、パンデミックそのものに関する詩やウイルスを擬人化した詩が多いのだが、私たちはまだパンデミックのさなかにいるというのにすでに古ぼけて感じるのだ。消化しきっていないと感じるものも多い。そして何より問題なのは、前向きさが説教臭く感じたことである。

大統領就任式の詩は前向きだったのは、その目的に適していて素晴らしいと思った。この新刊がもしエッセイ集だったら、これでも良かったと思う。

けれども、これは詩集なのだ。私は詩に関しては伝統的なタイプなので、やはりdeath, grief, loveといった単語を使わずにdeathやgriefのインパクトを表現し、loveの貴重さを語ってほしかったというのが本音である。

でもGormanは若いし才能があるので、これは過渡期の実験的な試みと受け入れるべきだろう。彼女自身が熟成した詩人になったときに振り返って「ああ、私は若かったわね」と懐かしく思う時がくるだろう。

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