小説『パチンコ』を連想させるカリブ海からの2世代にわたる移民物語 Black Cake

作者:Charmaine Wilkerson
Publisher ‏ : ‎ Ballantine Books
刊行日:February 1, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 400 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593358333
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593358337
適正年齢:一般(PG12+ 性暴力の話題はあるが描写はない)
読みやすさ:7
ジャンル:文芸小説、家族ドラマ
テーマ、キーワード:移民物語、カリブ海の移民の歴史、家族の秘密

家族の集まりでのある出来事をきっかけに何年も交流を断っていた兄のByronと妹のBennyは、母親Eleanorの死で再会した。Eleanorはカリブ海の伝統的なレシピで作ったBlack Cakeと録音を遺していた。録音は弁護士の立ち会いのもとでByronとBennyが一緒に聞き、適切なタイミングが来たらBlack Cakeをわけて食べるように、というものだった。想像もしなかったような母の過去と、自分たちに姉がいたことを知った2人は、自分たちの過去を振り返り、関係を修復していく……。

ジャマイカをモデルにしたカリブ海の島で中国系移民の父とアフリカ系移民の母との間に生まれた少女がある事情でイギリスに逃れ、そこで悲痛な体験をしてアメリカに渡る。その少女と、イギリスで白人の親に引き取られて実子として育てられた長女、アメリカで移民2世のアフリカ系アメリカ人として育った兄妹の体験が交互に綴られる。

レイプの結果生まれた長女を除くと、主要登場人物はすべて「黒人」として扱われている。でも、彼らは祖先に中国人がいるミックスだ。この家族の体験を通して、カリブ海の島々に中国人が移住した事情やその地での人種間の軋轢、カリブ海からイギリスへの移住が容易だった時代の事情などに興味を抱く読者もいるだろうと思った。

カリブ海の伝統的なケーキであるBlack Cakeについてもそうだが、「伝統的なレシピ」であっても、元をたどれば別の国で発生したものが何らかの事情でそこにたどり着いて変形したものであることが多い。カリブ海の奴隷を使ったサトウキビプランテーションで作られた砂糖がヨーロッパでケーキに使われていたのだが、そのサトウキビにしても、もともとは東南アジアの植物だった。登場人物がそういった史実や見解を語るのにも好感を抱けた。

唯一の純粋なアジア系の登場人物が最後まで救いようがないのは残念だったが、作者は多くの人の体験談からこの小説を書いたので、それも数多くの体験談のひとつとして読めばいいだろう。

「政治的なメッセージを伝えるための小説だ」という批判をする読者もいるようだが、私はまったくそうは思わなかった。どちらかというと、Min Jin LeeのPachinkoに近いと思った。生まれた国や移住先は異なるが、祖国を離れて異国で苦労する女性と彼女の子どもたちのストーリーとして共通点が多い。大きな違いは、このBlack Cakeは希望が抱けるし、暖かい気持ちになれる小説だというところだ。

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