作者:John Cho
Publisher : Little, Brown Books for Young Readers
発売日:March 22, 2022
Hardcover : 224 pages
ISBN-10 : 0759554471
ISBN-13 : 978-0759554474
対象年齢:小学校高学年から中学生(PG10)
読みやすさ:5
ジャンル:児童書、歴史小説
キーワード、テーマ:1992年ロサンゼルス暴動、Rodney King(ロドニー・キング))、Latasha Harlins(ラターシャ・ハーリンズ))、コリアタウン、人種対立
2009年公開の『スター・トレック』でヒカル・スールーを演じたジョン・チョー(John Cho)は、K-Pop人気が広まるもっと前のアメリカで、アジア系の俳優としてメジャーな存在になった先駆者的な存在である。そのジョン・チョーが、Covid-19のパンデミック中に起こったジョージ・フロイド殺害事件とそれに引き続き起こった抗議運動にインスパイアされて書いたのがこの児童書。
主人公はLAのコリア系コミュニティで暮らす少年Jordan。両親と一緒に韓国から移住したが、コリア系移民の子供特有の重圧を感じている。学業もスポーツも優秀な高校生の姉と常に比較され、親からも学校からも出来が悪くてわがままな問題児扱いされている。
父親との関係が悪化している最中にロドニー・キングを暴行した警察官らが無罪判決を受け、それに引き続いて暴動が始まった。自分たちが経営する店が略奪されることを案じた父は、予防のために店の窓に板を張るために店に向かった。Jordanは父が「絶対に触らないように」と見せてくれた銃のことを思い出し、それを父に届けに行くことを思いつく。父に自分の勇敢さを認めてもらいたいという気持ちがあったので、姉や母親には内緒で、親から「つきあうな」と禁じられた友人と一緒に出かける。だが、友達のせいでトラブルに巻き込まれ、両親の店にはなかなか到着できない。この無謀な体験で、Jordanは自分や自分の家族、そして自分が住む世界について以前には見えなかったことを学ぶ…。
日本で「ロス暴動」と呼ばれる1992 Los Angeles riotsは、死者63人、負傷者2383人、逮捕者1万2千人以上というアメリカの歴史に残る大暴動だった。本書にもあるが、ロドニー・キング事件に引き続いて起こった、ラターシャ・ハーリンズ殺害事件も心理的な影響を与えていたとみられている。コリア系移民の店主の女性が、15歳の黒人の少女がオレンジジュースを万引したと信じて射殺した事件だ。店主は有罪判決を受けたものの軽い刑ですみ、投獄されることはなかった。
多様な人種が住むLAでの人種間の対立や緊張、という非常に難しいテーマを中学生向けの児童書にするのは心理的にも大変な作業だったと思う。12歳の少年が銃を父に届けようとするところなど特に。でも、コリア系の移民からの視点だけでなく、黒人が多く住む地域で、かつて黒人がオーナーだった店がコリア系の持ち主になってから黒人の客が歓迎されなくなったことを読者に想像させてくれるのも良かったし、「銃で自分の所有物を守ることは正しいのか?」といった重要なことをこの年令の子供に考えさせるという意味でよく踏み込んでくれた児童書だと思う。