1960年代のアメリカで化学者になりたかった女性の孤独な闘いをユーモアで描く傑作風刺小説 Lessons in Chemistry

作者:Bonnie Garmus
Publisher ‏ : ‎ Doubleday
刊行日;April 5, 2022
Hardcover ‏ : ‎ 400 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 038554734X
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0385547345
対象年齢:一般(PG15+、性暴力の場面あり)
読みやすさ:7
ジャンル:歴史小説、風刺小説
キーワード、テーマ:1960年代アメリカ、職場で女性が受けた差別と暴力、化学者、TV料理番組、犬、泣ける本、笑える本

宗教詐欺師の両親に育てられ、唯一頼りにしていた兄を自殺で失ったElizabeth Zottの唯一の夢は化学者として達成すること。だが、博士課程を終える前に指導教授からレイプされ、加害者のほうを守る大学によって学問の場を追い出された。Hastings Research Instituteで就職したものの、女性であることと博士号を取っていないことを理由に男性の同僚や上司から仕事での達成を盗まれ続ける。Elizabethは「将来のノーベル賞受賞者」とみなされている天才的な化学者のCalvin Evansと職場で出会う。周囲から人嫌いだとみなされていた2人は恋に落ちるが、化学者として自力で偉業を成し遂げたいElizabethはCalvinからの求婚を頑なに拒んだ。CalvinはElizabethの気持ちを尊重して、陰で支えることにする。

悲劇が起こり、Elizabethは愛するCalvinと仕事を失い、シングルマザーとして生きることになる。どん底の状況を救ったのは、おせっかいな隣家の主婦と、偶然に得たテレビの料理番組の仕事だった。

プロデューサーの指導と命令を無視して化学者として料理の説明をするElizabethの番組は大人気になるが、それと同時にElizabethはだんだん鬱になっていく…。

今年になってから(100冊以上読んだなかで)最も面白かった小説。
私より1世代上の女性たちの生き方の選択がいかに限られたものだったのか、社会が決めた生き方に沿わない女性がどのように扱われてきたのかを、類まれなヒロインのElizabethの視点を通して紹介してくれる。周囲を居心地悪くさせるElizabethのような女性の努力のために現在の私たちはジェンダーにかかわらず好きな仕事を選べるようになったのだし、それでもまだ学問の世界や職場での性差別やハラスメントが残っている。そういったことを若い世代に知らしめてくれる歴史小説でもある。

そのような深刻なテーマを扱っているけれど、説教臭い本ではない。ドライなユーモアがちりばめられていて、つい吹き出す場面がたっぷりある。愛犬の6:30(へんてこな名前だが、それにはちゃんと理由がある)、超天才な娘のMadelineなど周囲を取り囲むキャラクターも面白く、読み終えるのがもったいない本だった。

 

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