作者;Annie Hartnett
Publisher : Ballantine Books
刊行日:April 12, 2022
Hardcover : 368 pages
ISBN-10 : 0593160223
ISBN-13 : 978-0593160220
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさ:8
ジャンル:現代小説
キーワード、テーマ:人間の滑稽さと素晴らしさ、家族ドラマ、動物、幽霊、オピオイド依存症、老い、人生、ミステリ
生まれた時に助産師から「転生の癒やしの能力がある」と認定されたEmmaは、米国東海岸北部にあるニューハンプシャー州の小さな町を離れて西海岸の医学大学院への進学を果たした。家族と故郷を避けてきたEmmaだが、突然癒やしの力を失い、医学大学院からもドロップアウトしてしぶしぶ生まれ育った家に戻ってきた。
スポーツ中の怪我をきっかけにオピオイド依存症になった弟はリハビリを終えて家でゴロゴロしており、浮気をして母に追い出された筈の大学教授の父は家に戻っていた。60代後半の父は特定できない認知症の悪化で問題を次々と起こして大学を強制的に引退させられ、家で幽霊と会話を交わしている。父と同じ大学で図書館司書をしている母は、人生に挫折して落ち込んでいる娘に「医者にならないなら弁護士になれ」というプレッシャーを与え、母に甘やかされている無職の弟は姉の挫折を喜んでいる。何でも忘れてしまう父がひとつだけ忘れないのは、行方不明になっている高校時代のEmmaの親友を探し出すことだ。そんな家から抜け出すために小学校の代理教師の職についたEmmaは、期待していなかった仕事の楽しみを見出し、母から押し付けられた父の法定後見人の役割を通して周囲の人との関係を見直すようになる……。
作者はニューハンプシャー州のニューポートを訪問した時にみかけた黄色い大きな屋敷から、小説の舞台を作り出したという。それまでに既に登場人物たちの案は決まっていたらしいが、偶然にもこのストーリーの重要な人物と同様に黄色い屋敷の持ち主も「銃」で富を築いたGun Baronだったのである。
小説のEvertonは架空の町だが、黄色い屋敷と大金持ちのみが会員の狩猟クラブCorbin Parkは実存する。Corbin Parkは想像を超える大きさで、1万ヘクタール(フロリダのディズニーワールドや日本の猪苗代湖ほどの大きさ)だということだ。
この小説には、「実存のDr. Dolittle(ドリトル先生)」と呼ばれたErnest Harold Baynesも幽霊として出てくる。しかも、父親におせっかいなアドバイスをする重要な役割で。彼のおせっかいさを分析して批判するのは、町の墓地にいる幽霊たちである。
幻覚だけでなく本物の動物も出てくるし、噂好きの幽霊たちもいるし、まともそうでまともではない幽霊のErnest Harold Baynesの自伝のような部分もあるし、最初のうちは「この小説はいったいどこに行くのか?」と不安になる。だが、流れにそのまま乗って読んでいくと、どうしようもない人物たちと、奇妙な出来事の数々が楽しくて、周囲の人に薦めたくなってくる。笑えるだけでなく、最後にはちゃんと心を温めてくれているスグレモノの小説だ。Kevin Wilsonの小説が好きな人にお薦め。