作者:Grace D. Li
Publisher : Tiny Reparations Books
刊行日:April 5, 2022
Hardcover : 384 pages
ISBN-10 : 0593184734
ISBN-13 : 978-0593184738
対象年齢:一般(PG12+)
読みやすさ:6
ジャンル:犯罪スリラー、heist
キーワード、テーマ:西洋の美術館が中国から盗んだ美術品を取り戻す、China Poly Group、米国の中国系移民2世、heist
2018年、GQに『The Great Chinese Art Heist』という記事が掲載された。世界中の美術館から中国の古代の美術品が盗まれる事件が続いており、中国政府が運営するChina Poly Groupがその背後に存在するのではないかというものだ。本書は、実際に起こった犯罪からインスピレーションを得て書かれたフィクションである。
ハーバード大学卒業間近のWillは、中国系移民の親たちが子供に期待することをすべて実現してきた「理想的なアジア系2世」である。だが、Willはそれでは満たされない気持ちを抱いている。「中国から美術品を盗んだ数々の西洋の美術館からそれらを取り戻す」という違法の仕事を中国の大富豪から持ちかけられたWillは、中国系移民2世だけでチームを作る。まずはデューク大学に通っている妹のIrene。彼女には難しい状況に陥ってもそれを切り抜ける説得力がある。IreneのルームメイトのLilyはストリートカーレースの天才で、逃亡のための運転手として最適だ。昔からの知り合いのAlexはMITを中退してシリコンバレーでエンジニアをしているが、隠れ天才ハッカーである。そして、子供の頃からの親友のDanielの父親はFBIの美術品盗難の専門家で、息子は鍵開けの天才だ。それぞれに親が求める有名大学に入学し、将来もある彼らは躊躇するが、一方でスリルに魅了される。それに、ひとり10ミリオンダラー(10億円以上)という報酬も魅力だった…。
発売前から話題になっていたし、「オーシャンズ11」という謳い文句で期待していた作品なのだが、残念ながら期待はずれだった。
実際に起こった事件から得たアイディアは面白そうなのだが、すべてが薄いのだ。中国系移民の子供たちが親からかけられる期待と、それを果たしてもたいしてエキサイティングな未来はないという諦めのようなものは、作者自身が感じていることかもしれない。しかし、彼らの心情を読んでいると、あまりにも甘くて共感を抱くことができない。また、「西洋が中国から盗んだものを取り返す」ということを美化しすぎているところがある。GQの記事にもあったが、中国は最近になるまで西洋の美術館が所有している中国の美術品には興味を抱かなかったのだ。特に文化大革命の時代には、そういったものを破壊してきたのだし。国にかかわらず、祖国や祖国の文化などを美化したくなるのが、移民2世の特徴なのかもしれない。親の世代は「祖国よりも良い暮らし」を求めて別の国に移ってきたのだが、自分の国で別の人種から移民のように扱われる子供の世代は異なる気持ちを抱くのだろう。この本が意図したことではないと思うが、私にとってはそこが興味深かった。
それでもheistそのものが「オーシャンズ11」のように面白かったら作品として成り立っていたのだが、そうではなくて残念だった。
そもそも、アマチュアの大学生にこんな大仕事を頼むだろうか? そこが疑問だったのだが、最後まで読んでも納得できなかった。
私自身は全然楽しめなかったのだが、アメリカでの読者評価は高いので、たぶん私はターゲット層ではないのだろう。YAではないが、YA本だと思えば楽しめるかもしれない。