作者:Ben Alderson-Day
Publisher : St. Martin’s Press
刊行日:March 28, 2023
Hardcover : 304 pages
ISBN-10 : 1250278252
ISBN-13 : 978-1250278258
対象年齢:一般(PG12)
読みやすさレベル:7
ジャンル:ノンフィクション(ポップ科学)
テーマ、キーワード:心霊現象、幻覚、幻聴、超常現象、心理学的、脳科学的な説明
精神障害における妄想や幻覚はよく知られているが、普通の人でも入眠時によく「金縛り」という現象を体験する。心では目覚めているつもりなのに身動きができず、恐怖や不安を感じる。そして、そこにはいないはずの存在を鮮やかに感じる人も多い。これらは医学的なものだが、それとは別に、災害や事故の時に親や祖父母の幽霊が現れて救い出してくれたという体験を語るサバイバーもいる。
そういう体験について書いた本だというと、オカルト本と思うかもしれない。だが、本書は英国で「オックスブリッジ」と呼ばれる名門校のひとつダラム大学でAssociate Professorとして心理学を教える著者が書いたものであり、科学的な視点でそれらの現象を説明しようと試みた本である。著者は、この本のテーマを次のように説明している。
”If there is a central thesis to the book, it is this. Understanding an experience like felt presence– what it is, why it happens, and who it happens to–requires us to cast the net wide, comparing stories of presence from close to home and further afield, across oceans and mountains, and from early life to old age.””Presences tell us who we are, what we value, and how we respond to adversity. The story of presence is truly a story about the self” (「もし本書の主要になるテーマがあるとしたら、それはなんらかの存在を感じる”プレゼンス”の経験を理解することです。つまり、それが何であり、なぜ起こるのか、そして誰に起こるのか。それを理解するためには、身近な場所から海や山を超えた遠い場所まで広範囲に、そして幼少期から老年期に至るまでのプレゼンスの体験を比較することが必要です。」「プレゼンスは、私たちが誰であり、何を重視し、逆境に対してどう反応するのかを教えてくれます。プレゼンスのストーリーは、実際には自己についてのストーリーなのです。」
作者は心理学と脳科学の専門家なので精神障害や睡眠障害についてもちろん言及されているが、私にとってもっとも興味深かったのが’Fellow Travelers’の部分だ。
アーネスト・シャクルトンが率いる1914年の南極遠征は、エンデュアランス号が流氷に閉じ込められて破損して失敗に終わった。だが、隊の全員が奇跡的に生還したことで、「アポロ13号」のように歴史に残ることになった。ようやくたどり着いたサウスジョージア島の南岸から北岸にある捕鯨基地に救助を求めに行くためにシャクルトンと隊員2人が山岳地帯を超える約51kmの道のりを36時間かけて歩いたときに、彼らは4人めの存在を感じていたという。1933年に酸素ボンベなしにエベレスト登山を果たしたフランク・スマイトも一緒に登山をしている2人目の存在を強く感じたという。究極の状況に直面した人たちが、幽霊のような存在によって救われるという体験もよくある。こういったfellow travelerの存在を単なる「サバイバルのためのコーピング」と片付ける専門家もいるが、マインドが作り上げる存在によって普通の人間には不可能なことを奇跡的に成し遂げるとしたら、やはり「超常現象」と言えるだろう。
特にものすごい発見がある本ではないが、人間の脳の不思議さというか、柔軟さを改めて感じる面白さがあった。