作者:Elizabeth McKenzie (The Portable Veblen)
Publisher : Penguin Press
刊行日:March 14, 2023
Hardcover : 336 pages
ISBN-10 : 0593300696
ISBN-13 : 978-0593300695
対象年齢:一般(PG15 特に問題になる描写はない)
読みやすさレベル:7
ジャンル:文芸小説
テーマ:女性の人生、人間関係、不幸や不運のさなかでのユーモア
文学賞:2023 Women’s Prize for Fiction候補(まだ結果は出ていない)
Pennyは生まれた時から30年以上自分勝手な家族たちの問題に振り回される人生を送ってきた。心から愛していた母と、実の父以上に父親らしかった継父が5年前にオーストラリアで行方不明になってからは孤独さに打ちのめされていた。自分の浮気を妻の責任にする夫をようやく置き去りにし、嫌な仕事を辞め、人生をやり直すことを決意したPennyだが、独居している祖母のDr. Pincerの家に駆けつけてから思いがけない事件が次々と起こる。
「Dog of the North」という名前がついたオンボロのvan(キャンピングカーのようなもの)の持ち主とその弟、自己中心的で他人をいいように利用するスキルに長けている祖母のDr. Pincer、その妻と別れた後でさらに性格が悪い年下の女性と結婚した祖父、Pennyを心理的に虐待してきた実父、オーストラリアに移住してしまった優秀な異父妹…といった独特な登場人物たちにポメラニアンや庭から出てきた骸骨が加わり、予測がつかない展開になる…。
Women’s Prize for Fictionの候補作になったこの作品が発売されてすぐに読み始めたのだが、その時に「なんだか懐かしい文章だ」と思ってようやく2016年に全米図書賞のロングリスト候補になったThe Portable Veblenの作者だということに気づいた。最初にThe Portable Veblenに出会った時には、「私は通常こういった「天然ボケ」的な文章が好きではない。非常に意欲的な試みだとは思ったが、うまくいっているとは思わなかった。」という感想を抱いた。けれども、(その時のレビューにも書いているが)「4ヶ月たった今でもVeblenやPaulのことを覚えているし、残っているのは暖かい印象だけだ。つまり、最初感じたよりも、ずっと味わい深い本だった」のである。実際に、今回この本を読んだ時には、「ああ、私はこういうquirkyな本が実は好きなんだ!」と実感したくらいだ。
この本でもちらりと登場人物が村上春樹の本について触れているが、米国にはこの本を村上春樹や川上未映子と比べる読者もいるようだ。だが、私はKevin WilsonやAnnie Hartnettに近い作風だと思う。不運な主人公は「不条理な世界」の犠牲者なのだが、彼らのシチュエーションはときおり声を出して笑ってしまうほど可笑しい。そういう微妙なユーモアをうまく散りばめているのがこれらの作家の特性と言えるだろう。そして、読者としての私はその部分に惹かれていると思う。
この本でも、どうしようもない人々が無理難題をPennyに言いつけ、「No」と言えないPennyは彼らの問題を解決しようとする。その難題の数々なのだが、重要そうで実はそう重要ではないらしいことが最後にわかる。このあたりで本の評価がたぶん分かれることだろう。2016年の私なら、そのために評価の星を2つくらい外したかもしれない。けれどもあれから7年年を取った私は、「これでいいのだ…(たぶん)」と星5つのままにしている。
やはり、小説は「出会う時期」が大切なのだろう。