作者:Jinwoo Chong
Publisher : Melville House
刊行日:March 21, 2023
Hardcover : 352 pages
ISBN-10 : 1685890342
ISBN-13 : 978-1685890346
対象年齢:一般(PG15)
読みやすさレベル:8.5
ジャンル:文芸小説、SF
テーマ、キーワード:アメリカの起業カルチャー、ベンチャー企業詐欺、コリア系アメリカ人、アジア系アメリカ人のアイデンティ、タイムトラベル、家族の葛藤、バイセクシャル、Flux capacitor
コリア系ハーフの8歳の少年Boは、クリスマスを目前にして最愛の母を交通事故で失った。自分が家に置き忘れたランチを届けに来たために母が死んだことに責任を感じるBoは、その心の傷から父や弟と疎遠になっていく。20代後半のBrandonは、クリスマス寸前に勤務していた雑誌が買収されたことで職を失う。その直後の事故で出会った者からメディアに注目されているテックビジネスのスタートアップにリクルートされる。そして、過去に脳の言語中枢の障害で発語の機能を失った40代後半のBlueは、元妻と娘を愛しながらも疎遠になっている。そして、悪名高いベンチャー企業詐欺の証人になるために最新技術のインプラントで一時的に発話できるようになる。
3人のBの関係は、読み進めるうちに容易に想像できるので、ここでは説明しないが、この3人を繋ぐのが、BrandonがYou(あるいはJacket guy)と呼ぶ80年代のTV犯罪ドラマの主人公への執着である。
Brandonが失業した後に就職したFluxと女性CEOは、世界的に有名になったTheranos(セラノス)と創業者のエリザベス・ホームズを連想させる。Fluxは永久に充電の必要がない電池を開発したという名目で資金を集め、若い美貌のCEOは多くのビジネス雑誌の表紙に載る。Fluxはそのような技術は開発していなかったのだが、実はこの企業にはもっとダークな目的があり、そのためにBrandonが雇われたことが次第に明らかになってくる。
本の題名にもなっているFluxは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくるタイムトラベルの技術flux capacitorから来ており、タイムトラベルが関連していることを読者に示唆している。
この小説では、セラノス事件のように呆れるような詐欺が起こるアメリカの起業カルチャーや、アジア系が多いテックビジネスの環境、アジア系アメリカ人(特にハーフ)のアイデンティの複雑さなどかなり多くのテーマが詰め込まれている。主要キャラがアジア系のバイセクシャルということで、「アメリカの小説では、これまでにあまりなかったキャラ」を歓迎する読者もいるようだ。しかし、多くのテーマを詰め込みすぎていて、いずれも心に突き刺さってこなかった感じがあった。私にとっては「そこ、何か意味があるんでしょうか?」とツッコミを入れたくなる場面がかなりあったが、ミレニアル世代が対象の最近のストリーミング・ドラマでは「不可思議なことが説明なしに起こる」というのは日常茶飯事になっている。だからこの小説もそんな感じですんなり読まれるのかもしれないと想像しながら読んだ。
作者はコリア系アメリカ人のJinwoo Chongで、ニューヨーク・タイムズ紙のSales planner(購読者を増やす戦略を立てる職)の仕事をしながらのデビュー作である。
「いったい今、何が起こったのか?」と思う場面が多いので、読みやすさレベルは8と9の間の8.5にした。