元フライトアテンダントが書いた、完成度が高い航空クライシス(パニック)小説 Drowning

作者:T. J. Newman
ASIN ‏ : ‎ 1982177918
Publisher ‏ : ‎ Avid Reader Press / Simon & Schuster
刊行日:May 30, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 304 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1982176865
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1982177911
対象年齢:一般(PG12-特に問題表現なし)
読みやすさレベル:7(いったん入り込んだら一気に読了できるタイプの本)
ジャンル:スリラー/クライシス小説(パニック小説)
テーマ、キーワード:航空事故、救出ドラマ、家族ドラマ

フライト1421はホノルル空港を飛びだった直後に操縦不可能の最悪の状況に直面し、太平洋に墜落した。生存者はフライトアテンダントの指示に従って緊急脱出を始めたが、その途中でエンジンが爆発し、燃料が水上に広がっていった。

11歳の娘Shannonと一緒に生き残ったエンジニアのWillは次に何が起こるのかを察知し、飛行機にまだ残っていた機長とフライトアテンダント(和製英語だとCA)にドアを閉めるよう指示した。最初は誰も彼の言うことを聞かなかったが、燃料に火がついて広がっていくのを察知した彼らはWillに従った。結果的に水上にいた生存者のほとんどが焼死したのだが、生き残った者は沈んでいく飛行機に閉じ込められたままだ。

機内の水位がどんどん上がっていき、生存者がパニックに陥るなか、外では救出の計画が進んでいた。ちょうどその時、Willの妻Chrisは政府の請負の仕事で海に潜っていた。Chrisはベテランのダイバーで、深水での危険な回収作業を行う会社を経営している。WillとShannonが搭乗していたフライトが墜落したことを知ったChrisはその救出チームに加わろうとする。Chrisはすぐに政府機関の救出チームの救出計画の無謀さを理解して「それだと生存者を殺すことになる」と反論するが、救出チームのリーダーは民間の彼女の意見には耳を傾けない…。

作者は元フライトアテンダントで、仕事の途中に思いついて書いた航空クライシス小説のFallingでデビューし、それが超ベストセラーになった。現在映画化が進行中ということだ。

私は飛行機に乗るのが怖くなるのが嫌なのでこれまで避けてきたのだが、読者の評価が高いので新作のDrowningを試してみることにした。

作者は女性なのだが、数多くの登場人物の描き方やエンジニア的な説明がドライで、読み始めてすぐに抱いたのはマイケル・クライトン的な印象だ。この小説の登場人物はたぶん作者が仕事で接したリアルな人々の集大成なのだと想像して、嫌な乗客の描写も楽しめた。私はエンジニアでもパイロットでもないので正確かどうかの判断はできないが、状況の解説などに説得力がある。ひとつの困難を乗り越えたら、次にまた困難がやってくるハラハラの展開なので、いったん読み始めたら最後まで一気に読むしかないという気分になる。実際に数時間で読み切ってしまった。

日本では「パニック小説」と呼ばれるクライシス小説であり、危機に直面した時に出てくる人間の本質を扱う人間ドラマである。また、思いがけない事故で長女を亡くしたために夫婦の関係が壊れて離婚寸前になっているWillとChrisのストーリーが加わり、家族ドラマにもなっている。

しばらく飛行機に乗るのが怖くなるので旅行の前やフライト中に読むことはお薦めできないが、安全な家の中で読むと楽しめる完成度が高いスリラーである。

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