ネイサン・ヒルズは、ジョナサン・フランゼンに似ていて、彼よりも人間に優しい現代アメリカ文学の担い手かも。 Wellness

作者:Nathan Hills
Publisher ‏ : ‎ Knopf
刊行日:September 19, 2023
Hardcover ‏ : ‎ 624 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0593536118
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593536117
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:8(文章そのものは難しくないが、登場人物が多く、ページ数が多いので根気が必要)
ジャンル:文芸小説、現代アメリカ文学
テーマ、キーワード:人間関係の複雑さ、ネグレクト、親子関係、愛、裏切り、癒やし、アメリカの表層的な社会への風刺
2023年これ読ま候補作

他の学生とは異なる自分を自覚し、他人との距離を感じていた大学生のJackとElizabethは、1990年代のシカゴで運命的な出会いと強い絆を感じて結婚した。けれども20年後の彼らは仕事や子育てにストレスを覚え、凡庸になりつつある自分の人生に失望しつつあった。Elizabethは、心理の専門家なのに息子の行動が理解できない自分にフラストレーションを覚え、努力もしないのに息子を理解できるJackに嫉妬を覚える。そして、何があっても自分にしがみつく夫と距離を取りたくなる。

ElizabethもJackもそれぞれが子供の頃に経験した心理的なトラウマの後遺症を抱えていて、それが今ごろになってdysfunctional family(機能不全家族)という形で現れつつあった。2人はマインドフルネスのサポートグループのふりをしたカルトに遭遇したり、ポリアモリー(お互いの許可を得て複数のパートナーと恋愛関係を持つ)のグループに加わることを考慮したり、息子の学校の親たちからのけものにされたりする。その中で、2人は互いにとって最も貴重なものを見出し、それを失うリスクに気づいていく…。

Nathan Hillsのデビュー作『The Nix』を読んだ時に「これは傑作だ!」と唸ると同時に「こんなに沢山のトピックを詰め込んでしまうなんて、もったいない。もうこれ以上書けないのではないか」と心配したものだ。

ちゃんと2作めを書いてくれたのでほっとしたものの前回のような傑作を再び生み出すのは難しいのではないかと思い、読んで失望するのが少々心配だった。

でも心配無用だった。今回も624ページという分厚さで、多様なトピック満載である。それでもちゃんと最後に収まっているところが素晴らしい。

アメリカの普通の人々が織りなす人間関係をリアルに描くことではジョナサン・フランゼン的な作家だが、ネイサン・ヒルズはフランゼンよりもずっと人間を優しい目で見ている。登場人物たちは途中経過でとんでもないことを考えたり、行動したりするが、最終的に人間関係を信じる選択をする。そこがヒルズの小説の魅力である。

1 thought on “ネイサン・ヒルズは、ジョナサン・フランゼンに似ていて、彼よりも人間に優しい現代アメリカ文学の担い手かも。 Wellness

  1. 処女作「ザ・ニックス(The Nix)」を読みました。確かジョン・アービング推薦という文句に惹かれて手に取ったのを記憶しています。その次作が出たことは先日知っていましたが、今回の紹介内容で俄然今作も手に取りたいと思います。前作に続き複数の話を交互に展開させていくスタイルなんでしょうか。洋書ファンクラブの皆さんは洋書のまま読んでしまうのでしょうが、私は邦訳希望です。でも、アービングの最新作もまだ邦訳出てないんですよね。そちらが出てから今作「ウェルネス」に手を出すつもりです。

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