2024年必読のインスタント・クラシックは、黒人奴隷のジムの視点で描いた『ハックリベリー・フィンの冒険』リメイク James

 

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作者:Percival L. Everett
Publisher ‏ : ‎ Doubleday; First Edition
刊行日:March 19, 2024
Hardcover ‏ : ‎ 320 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 0385550367
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0385550369
対象年齢:一般(PG15+)
読みやすさレベル:8(ダークなユーモアを理解するためにはアメリカの歴史の知識と読解力が必要)
ジャンル:文芸小説、風刺小説、歴史小説
キーワード、テーマ:マーク・トウェインの『ハックリベリー・フィンの冒険』,Adventures of Huckleberry Finn、アメリカの奴隷制度、人種差別の歴史
2024年これを読まずして年は越せないで賞候補作

今年2月、丸善グループが刊行している日本最古の出版PR雑誌『學鐙』から「これから読む本」というタイトルで執筆を依頼された。その時に私が選んだのがPervcibal EverettのJamesだった。

この小説はマーク・トウェインのAdventures of Huckleberry Finnを逃亡した奴隷のJimの視点で描いたリメイクだということで、とても楽しみにしていたからだ。

出版されてすぐに読んだのだが、本ブログでご紹介するのは『學鐙』刊行から数ヶ月待つことにした。

『學鐙』に書いたのは次のような内容だった。

毎年のごとく首を長くして発売を待つ新刊がいくつかあるのだが、2024年期待の新刊のひとつはPercival Everett(パーシヴァル・エヴェレット)のJamesだ。

マーク・トウェインの有名な小説Adventures of Huckleberry Finn(『ハックリベリー・フィンの冒険』 )をハックリベリー・フィンと一緒に逃亡した奴隷のJimの視点で描いたretelling(改作)ということなのだが、それだけだと既に多くの人が書いていそうだし、新鮮さは感じないかもしれない。けれども、これまで誰がどのようなリメイクを試みてきたとしても、エヴェレットはそれらを超越した斬新で面白い改作を読者に与えてくれると私は信じている。

『ハックリベリー・フィンの冒険』 は『トム・ソーヤーの冒険』の続編として書かれたものだ。しかし、シンプルに少年の冒険物語だった『トム・ソーヤーの冒険』とは異なり、『ハックリベリー・フィンの冒険』のほうは奴隷制度への疑問と批判が込められている政治的な作品である。世界的に有名なのは『トム・ソーヤーの冒険』だが、作品として評価が高いのは『ハックリベリー・フィンの冒険』のほうだ。
マーク・トウェインが育った19世紀前半のミズーリ州では奴隷は合法であり、少年時代のトウェインは何の疑問を抱くことはなかった。『トム・ソーヤーの冒険』はその感覚で書かれたものだが、その後トウェインの考え方そのものが変わってきた。奴隷の逃亡を援助する「slave-stealer」の活動に出費していた妻の父親などの奴隷制度廃止論者らから話を聞き、しだいに過去の自分を恥じるようになったのだ。そうして誕生した続編が『ハックリベリー・フィンの冒険』だった。「ニガー(アメリカでは直接の綴りを避けて「Nワード」と表現される黒人に対する差別用語)」が数多く出てくるために、近年ではこの本そのものが差別的だという批判と論争が生まれ、図書館で禁書になったり、この表現を削除あるいは書き換えた本が出版されたりした。けれどもこれはNワードを含む人種差別が普通に存在した時代に、アメリカ社会を批判する画期的で勇敢な作品だったのだ。後世にその歴史を伝えるためにも作品はそのまま残すべきだと私は思っている。

(以下省略)

さて実際に読んだ感想だが、これまでのエヴェレットの作品よりもユーモアがダークだというのが最初の印象だった。というか、彼独自のユーモアはあるのだが、とても暗い。

主要人物であるJamesなのだが、マーク・トウェインが『ハックリベリー・フィンの冒険』で描いたJimとは多くの面で異なる。Jamesは密かに読み書きを学んでいただけでなく、膨大な読書によって知識と知性を備えている。けれども、奴隷が読み書きをすることが禁じられていただけでなく、命にかかわる犯罪行為だった時代なのでJamesはそれをひた隠しにし、白人の前では、彼らの期待に応じて愚かなふりをして生き延びている。まるで正体を隠すスーパーヒーローのようでもある。

読んでいてつらかったのは、Jamesを少しでも助けようとした人はろくでもない運命をたどるところである。奴隷の逃亡を助けることが危険だった当時を現実的に描こうとしたのかもしれないが、白人作家が人種間交流を描くときの「心あたたまるストーリー」には決してならないので読者は覚悟が必要である。

これを読んだ後にはマーク・トウェインのJimが異なる人物に見えてくる。というか、カリカチュアを超えてひとりの人物に見えてくる。

年末に時間ができたら、少し読み比べてみるのもいいかもしれない。

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