SF、ロマンス、スパイスリラー、ミステリ、歴史小説、風刺小説…多様なジャンルが混じり合った話題のタイムトラベル小説 The Ministry of Time

 

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作者:Kaliane Bradley
Publisher ‏ : ‎ Avid Reader Press / Simon & Schuster
刊行日:May 7, 2024
Hardcover ‏ : ‎ 352 pages
ISBN-10 ‏ : ‎ 1668045141
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1668045145
対象年齢:一般(R)
読みやすさレベル:8(文章はシンプルだが構成が複雑)
ジャンル:SF、スペキュラティブフィクション、ロマンス、スパイスリラー
キーワード:タイムトラベル、パラレルワールド

タイムトラベルを発見した近未来のイギリスには極秘の政府の行政機関Ministry of Time Travel(タイムトラベル省)があった。国家公務員の主人公が給料アップのために募集に応じた謎のポジションは、タイムトラベルで現代に連れて来られた時間の難民の世話係だった…。

本作は文芸誌に短編をいくつか発表してきたKaliane Bradleyの長篇デビュー作で、SF(スペキュラティブフィクション)、スパイスリラー、ミステリ、歴史小説、ロマンス、風刺小説など多様なジャンルが混ぜ合わさっている。また、テーマとしても、大英帝国の植民地主義、政府の腐敗、難民問題、人種問題、ジェノサイド、アウシュヴィッツ、9/11(同時テロ)、気候危機など多様な社会問題を取り扱っている。

作者の母親はカンボジア内戦時に英国に移住した移民であり、主人公と重なる。主人公のロマンスの相手は、ジョン・フランクリン海軍将校が率いた19世紀の悲劇的な北極探検で亡くなった実在の人物、司令官グレアム・ゴア(小説ではゴアは死の寸前にタイムトラベルで救われて現代に連れて来られる)である。

異なる時代から来た人たちにとっては現代人のマナーや倫理観は非常に異質であり、なかなか馴染むことができない。例えば女性への接し方、異なる人種の表現方法、帝国主義の捉え方など、19世紀の英国の軍人だったゴアにとって現代のルールはまったく理解できないものだ。彼とは異なる時代から来たタイムトラベラーたちも、ゴアと同様に「時間の移民」である。移民二世である作者がタイムトラベルを使って移民の立場を描いているのが巧妙だ。

こういったユニークな発想に加え、シリアスな部分とコメディ的な部分が混じった本書はエンタメとして読者にアピールすると思う。「GOOD MORNING AMERICA」というモーニングショーの読書クラブ選書になったこともあり、アメリカではベストセラーになっている。

けれども、私の期待が大きすぎたためか、細かい部分が気になってあまり没頭することができなかった。主人公が仕事として世話をする相手とロマンチックな関係になる部分では「専門職がそれをやったら犯罪なのでは? たとえ犯罪でなくても倫理的にいかがなものか?」「フィクションであっても、男性と女性の立場を変えたらおかしいと気付く読者はもっといるのでは?」とモヤモヤしてしまい、ラブストーリーをラブストーリーとして捉えることができなかった。また、タイムトラベルやパラレルワールドの考え方についても謎と疑問だらけで、それらへの答えを最後まで出してくれなかったのも不満だった。

とはいえ、あまり深く考えなければ冒険が多い娯楽作品として楽しめるし、大部分の読者は高い評価を与えている。特にふだんロマンス小説などを読まないシリアスな男性読者が楽しんでいるようなので、先入観を持たずにトライしてみていただきたい。

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