ヴァンパイア時代のアン・ライスを期待すると失望すること確実の新作 ー Angel Time

Anne Rice
288ページ(ハードカバー)
Knopf
2009/10/27
宗教ファンタジー

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最近ずっとアン・ライスなど読んでいないが、アン・ライスといえばヴァンパイアものを中心としたゴシックホラーやSMだと思う私はそう外れてはいないだろう。日本でそれ以外のアン・ライスを知る人はいないのではないだろうか。
そのつもりで新刊のARCを入手して読んだものだから、途中で「このアン・ライスは何者なのだ?」と混乱してしまった。バンパイアが出てこないだけでなく、パラノーマルな存在といえばこの作品のサブタイトル「The Songs of the Seraphim」に出てくるSeraphimだけなのだ。Seraphim(セラフィム)とは天使の位では最上位の熾天使のことで、もちろん善の存在である。

あらすじはこんな感じ。

汚職警官の父とアルコール中毒の母を持つToby O’Dareは、勉学の傍らlute(ルネッサンス期の弦楽器)を奏でて生活費を稼ぎ、幼い弟と妹の世話をしてきた。将来音楽家になる夢を観ていたTobyだが決定的な不幸に見舞われ、Lucky the Foxという名の殺し屋になる。

殺し屋のプロとしては成功したLuckyだが、心は荒んでゆくばかりだった。ときおり自殺を考慮する彼のもとにMalchiahという名のセラフィムが現れ、Tobyに彼の過去を見せてredemption(贖罪)の機会を与える。MalchiahがTobyを連れて行ったのは、ユダヤ教徒たちがキリスト教徒の住民にリンチされる緊張が高まっている13世紀の英国の町だった。Tobyは自分の命をかけてこの緊張を回避させる。

本当は美しい精神を持っているが不幸な生い立ちのために殺し屋になった美しい青年が神の使命を果たすことで贖罪されるというストーリーと、13世紀の悲恋が現代によみがえっているサブプロットには、まったくと言ってよいほど驚きがなかった。何よりも私を失望させたのは、Angel Timeがメロドラマのような宗教ストーリー以外の何ものでもない、ということである。 登場人物たちにも深みがなく、善と悪も二面的。Tobyの昔の守護天使は彼の不幸や殺しを見てめそめそ泣くだけだし、トビーも神の愛を感じては泣く。本全体が涙の洪水だ。読んでるこちらは感動するよりだんだんしらけてくる。

いったいアン・ライスに何が起こったのだろう?彼女も贖罪を求めているのだろうか?

驚いたのは、Amazon.comのレビューでこの本に簡単に感動してる人の多いことだ。そして、レビューで褒め言葉を書かないと猛烈に叩かれる。いったい彼らはこれまでどんな本読んできたのだろう?神の愛を描いている優れた作品は他にいくらでもあるだろうに。私は古い聖歌やオラトリオ、レクイエムといった宗教音楽がすごく好きなのだが、Angel Timeを読んでいるときにそれらを聴くときの恍惚感のようなものはまったく感じなかった。そこまで描ききれていないからだ。

これを傑作だと呼ぶ人はいるだろう(というより事実存在する)が、昔のアン・ライスのファンにはおすすめできない。これをおすすめできるのは、たぶん思春期のカトリックの少女だろう。クリーンな内容だし、神を愛を教えることができるし、ロマンチックといえばロマンチックだ。だが、「暗殺者ってかっこいい〜。私もなりたいな。その後贖罪すればいいんだし」と思う可能性もなきにしもあらず。

一カ所だけ私が気に入ったのはストラヴィンスキーのRite of Springが登場することだ。

余談だが、この作品では通常数ドル安いKindleバージョンがなぜか26セント高い。これではKindleバージョンは売れないだろう。それならばこのバージョンを作る意味がない。このマーケティングの意図はこの本の意図ほど不可解。

●読みやすさ ★★★★☆

★★★との中間くらいですが、簡潔でしかも短いので読了しやすいと思います。

●アダルト度 ★☆☆☆☆

殺人シーンが出てくるのと、若い未婚の女性が妊娠するというテーマがありますが、詳細はないし、性的描写に関しては小学生が読んでもさしつかえないほどクリーンです。

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