アガサ・クリスティの伝統を受け継ぐミステリーシリーズ「A Chief Inspector Gamache Novel」

プロットよりも登場人物のキャラクターを重視しているのが、コージーミステリーです。以前にもここここでご紹介したのですが、コージーミステリーにはシリーズになっているものが多く、1度登場人物に馴染むと、次回からはすっと物語に入り込めます。ですから、英語学習者には、特にお薦めのカテゴリーです。

けれども、英語での読書やミステリーに慣れてくると、物足りなくなってくるのも事実です。というのは、コージーミステリーには、登場人物の描き方やプロットが単純なものが多いからです。

そんな風に感じ始めた方にお薦めなのが、カナダの作家Louise Penny(ルイーズ・ペニー)の「A Chief Inspector Gamache Novel」シリーズです。


人間洞察に優れ、哲学的で、温厚なGamache (ガマシュ)警部をはじめ、登場人物ひとりひとりが、まるで実在の人物のように鮮やかに描かれています。それぞれに複雑な過去を持ち、問題を抱えている彼らの心理状況や人間関係を読むだけで、十分読み応えが。読んで行くうちに、思い出すのが、アガサ・クリスティのミス・マープルです。ミス・マープルも、平和そうな小さな村にかくれている、暗い人間の心理が醍醐味でした。このシリーズは、クリスティの伝統とクオリティをきちんと引き継いでいます。そ
そのためでしょうか、シリーズ第2作の「A Fatal Grace 」はアガサ賞を受賞しています。

オーディオブックもなかなかの優れものです。Ralph Coshamの声の表現力で、登場人物の誰が喋っているのか、説明されなくても、ちゃんと分かるのです。Gamacheの人となりが感じられる、落ち着きがある声も素敵です。

シリーズ第一作

 Still Life

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ペーパーバック: 320ページ
出版社: Griffin
言語 英語, 英語, 英語
ISBN-10: 0312541538
ISBN-13: 978-0312541538
オリジナル発売日: 2006年
ミステリー/コージーミステリー
CWA賞新人賞(New Blood Daggar)受賞作品

カナダのケベック州にある小さな村スリー・パインズで、感謝祭の週末明け、女性の死体がみつかった。犠牲者は引退した女教師ジェインで、胸には矢で射られたような跡が残っていた。スリー・パインズは、住民が家に鍵をかける習慣がないほど、静かで平和な村である。殺されたジェインも、誰からも愛されていた人格者だったので、人々は鹿狩りの事故だと信じていた。けれども、死因となった矢がみつからない。モントリオールから送られてきたガマシュ警部は、殺人の可能性がある事件として調査を始める。

何の欠陥もなかったかのようなジェインだが、振り返ると、不思議な事実がいくつかあった。亡くなる寸前の金曜日まで描いた絵を公開したことがなかったことと、彼女の家の中に入った者がひとりもいないということだった。最も仲が良かった隣人のクララですら、キッチンから奥には招かれたことがないという。ガマシュは、家の中を探索したいと思ったが、狩猟での事故が前提の現時点では捜索許可が出ない。しかも、家を相続したジェインの姪は強欲なエゴイストで、警官を家の中に入らせない。

だが、事件が殺人の様相を帯びてくるにつれ、一見平和な村の複雑な人間関係が浮かび上がってくる。未だに成功していないアーティストのクララとアーティストとしては成功している夫のピーター、ピーターの幼なじみで親友のベン、ビストロを経営するゲイカップルのオリヴィエとガブリ、辛辣な詩人のルース、クライアントにうんざりして引退した心理カウンセラーのマーラ、殺されたジェインの姪で最悪な性格のヨランダ…。それぞれの過去と心理状態が、殺人事件に深く関わっているようだ。

●ここが魅力!

それぞれの登場人物の、生い立ち、性格、心理状態、人間関係などが、非常によく考え抜かれています。主人公のガマシュも人格者ですが、ミスを犯すし、完璧ではありません。彼とボーヴォワール刑事の性格の差と、互いをいたわる心理にも好感が抱けます。続編で起こる事件で、彼らの人間関係が微妙に変わってくるのも、このシリーズの面白さです。

●読みやすさ 中程度

ミステリーの良さは、出てくる表現がさほど難しくなく、ストーリーに入り込みやすく、分からない単語が出て来ても、あまり気にならないことです。ペニーの文章は、簡潔でリリカルです。その場面や心理状況が目に浮かぶ、美しい表現ですが、わざと難しくしたりはしません。そこにも好感が抱けます。

●おすすめの年齢

ゲイカップルなどが登場しますが、性的な場面や表現はなく、中学生くらいから楽しめる作品です。

発売されたばかりの、シリーズ最新作

A Trick of the Light

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ハードカバー: 352ページ
出版社: Minotaur Books (2011/8/30)
言語 英語, 英語, 英語
ISBN-10: 0312655452
ISBN-13: 978-0312655457
発売日: 2011/8/30

クララのアートの才能がついに認められた。有名な評論家が個展にかけつけ、村人たちはパーティで成功を祝い、人生で最高の夜になる筈だったが、翌朝元親友の死体が庭でみつかった。それに加え、これまでアーティストとしてクララに優越感を抱いてきたピーターの複雑な心境がふたりを遠ざける。

シリーズの疲れが見えないどころか、非常に完成度が高く、とても読み応えがありました。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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