死を見つめることで生きることを描いた青春小説の傑作 The Fault in Our Stars

John Green
ハードカバー: 336ページ
出版社: Dutton Juvenile
ISBN-10: 0525478817
ISBN-13: 978-0525478812
発売日: 2012/1/1
ヤングアダルト/青春小説/がん、恋愛、家族

2012年「これを読まずして年は越せないで賞」候補作


16才のHazel(ヘイゼル)は、13才のときに甲状腺がんにかかり、それ以来学校をやめて闘病生活をしている。新薬が奇跡的に効果を示して一時的に寛解しているが、肺に転移したがんのせいで酸素ボンベの助けがなければ息ができない。孤独な娘を案じる母に強要されて参加した小児がんのサポートグループで、HazelはAugustus(オーガスタス)に出会う。かつて高校でバスケットボールのスターだったAugustusは骨肉腫で片脚を失ったサバイバーだ。辛辣なユーモアを持つHazelを好きになって近づくが、Hazelは完治の可能性が80%の彼とつき合うのは彼にとってフェアではないと考える。


ここまでの筋書きを説明すると「なんだ、がんの本か」とか「よくあるお涙頂戴のロマンスか」と思うのではないだろうか?
だが、主人公のHazelが大好きなAn Imperial Affliction(架空の小説)のように、がんが出てくるけれど「がんの本」ではない。また、私はおいおい泣いてしまったが、「お涙頂戴ロマンス」でもない。ユーモアたっぷりで笑えるし、深く考えさせるし、ときおりサリンジャーの「The Catcher in the Rye」を思い起こさせる。
この本の主人公たちはがん患者だけれど、死を見つめながら語っているのは、生きることと愛すること、人を思いやることの意味なのである。

ティーンエイジャーの多くは、大人が想像するよりも知的なので、皮肉なウィットに富んだ表現が重要である。

第一章で、娘のうつ状態を案じる母についてHazelはこんな風に語っている。

Whenever you read a cancer booklet or website or whatever, they always list depression among the side effects of cancer. But, in fact, depression is not a side effect of cancer. Depression is a side effect of dying. (Cancer is also a side effect of dying. Almost everything is, really.)
がんのパンフレットやインターネットサイトを見ると、副作用のなかにいつも「うつ」が含まれている。でも、「うつ」ってのは、実際にはがんの副作用じゃないのよね。「うつ」は、死にかけてることの副作用なの(がんもまた死にかけていることの副作用だし。そもそも、だいたいのことは、死にかけていることの副作用なんだから)。

そして、タイムリミットがあることを知っているHazelとAugustusの恋は、巷にあふれているティーン向けの小説に出てくるどんな恋よりも自然でキュートである。次はサポートグループで出会ったばかりのAugustusがHazelにアプローチをかけるところである。

“You should see it,” he said. “V for Vendetta, I mean.”
“Okay,” I said. “I’ll look it up.”
“No. With me. At my house,” he said. “Now.”
I stopped walking. “I hardly know you, Augustus Waters. You could be an ax murderer.”
He nodded. “True enough, Hazel Grace.”

「ぜったい観るべきだよ。『Vフォー・ヴェンデッタ』」彼は言った。
「オーケー。こんど探してみる」私は答えた。
「そうじゃなくて、僕とだよ。僕の家で一緒に観ようって言ってるんだ」彼はそう言って付け加えた。「いま」
私は歩みを止めた。
「オーガスタス・ウォーターズ、私は君のことをほとんど知らないんだよ。もしかしたら斧を持った殺人犯かもしれないじゃないの」
彼は頷いた。「それはもっともだね、ヘーゼル=グレイス」

この後、互いが熱烈に好きな本を読んで感想を携帯のテキストメッセージで交換しあったりするところは現代的だが、本を通じて相手を分析したり理解してゆくところなど、私が若い頃も今も変わらないのだと思わせてくれる。

現代社会でニヒルになりがちな私たちだが、この本を読んでいる間は、そんなことをすっかり忘れて生きることや愛することをおおっぴらに賛美し、愛する者たちをすぐさま抱きしめたくなる。そんな気持ちにしてくれる本は、そう滅多にはない。
(本書を読んだ後、娘がなぜか非常に優しかったのだが、そのせいかもしれない)

本書のタイトル「 The Fault in Our Stars」は、次のシェークスピアのジュリアス・シーザーからの引用である。

“Men at some time are masters of their fates:
The fault, dear Brutus, is not in our stars,
But in ourselves, that we are underlings.”

シーザーへの対応に悩むブルータスに対してのカシウスの助言の部分で、邦訳にはいろいろあるが、意味合いとしてはたぶんこんな感じではないだろうか。
「人生をどう生きるのか意思決定している者もいる。ブルータス、悪い事が起きるのは、運命(運星)のせいではなく、私たち自身のせいなんだよ。私たちの性質がつまらないものだから、他の人が私たちをコントロールするのだ」

著者のグリーンは「自分がシェイクスピアだったらこんなこと簡単に言えるけれど、そうだろうか?僕は賛成できないな」ということで、このタイトルになっている。でも、そのふかーい意味は、本を読んで知って欲しい。

●著者とファンのグレイトフル・デッド的な絆

娘がまだ高校生だったとき、「これすごく面白いのよ」と見せてくれたのが、VlogbrothersというYouTubeのサイトだった。

もともとは、JohnとHunkという兄弟が日記のようなかたちでビデオを送りあっているVlog(ビデオ映像でのブログ)だったのだが、それが大人気になり、若いファンたちも彼らにならって「nerdfighters」を自称するようになったのだ。
このファンのコミュニティは現在、なんと百万人を超えている。
その映像を観て、私は「え?」と驚いた。「これ、プリンツ賞とエドガー賞を受賞している作家のJohn Greenじゃないの!」
それを聞いて娘のほうが驚いた。
「本を書いているのは知っていたけれど、有名だとは知らなかった」
というファンは最初のうち多かったようで、2年前には「職はあるのですか?」というファンからの質問に答えるビデオもある。

日本ではまだまだソーシャルメディアの影響力に懐疑的だが、ツイッターでは百万人を超えるJohn Greenのファン(多くはティーンエイジャー)たちのパワーを思い知らせる驚くべきエピソードがある。

John Greenが本書The Fault in Our Starsのプレオーダーには「すべてサインする」と発表したとたん、The Fault in Our Starsは、Amazon.comとBarnes and Nobleの両方で売上ナンバー1になったのである。
もっと驚くべきことは、それが発売予定日(2012年1月)より半年も前の2011年6月だったということである(実は私もそのときに注文したのだが)。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』はグレイトフル・デッドというバンドがファンを大切にし、彼らと特別な関係を持っていたことを語っているが、John GreenもSNSを使った現代のグレイトフル・デッドなのである。そして、彼もデイヴィッド・ミーアマン・スコットと同じ大学(Kenyon College)の卒業生という偶然。

ところで、アメリカの作家は新刊プロモーションとして全国の本屋を訪問してサイン会などをするブックツアーなるものをやることになっている。
VlogbrothersのJohnとHunkもそのブックツアーを現在やっている途中なのだが、今までのブックツアーの常識を完全に破るものである。
私の娘もマサチューセッツ州でのサイン会に行ったのだが、そのチケットを獲得するのはロックコンサートより困難なのである。そして、サイン会はほんの一部で、演奏、人形劇などいろいろなパフォーマンスがぎっしり詰まったお祭りが6時間も続くという。
まあ、これをご覧になって欲しい。

●読みやすさ 中程度

文法は難しくないのですが、普通のYA本には出てこない難しい単語が沢山出てきます。

●おすすめの年齢層

セックスについての話題とシーンも(露骨ではありませんが)あります。
高校生以上が対象。

●おまけ

私の予測ですが、この本は、全米図書賞かプリンツ賞といった大きな賞を受賞すると思います。

2件のコメント

  1. ゆかりさん、
    Paper Townsしか読んでいないのですが、この新刊をよく書店で見かけるので気になってました。取り上げてくださってありがとうございます!Youtubeもよかったです。

    いいね

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