イラク戦争時代のアメリカを見事に描いた風刺小説 Billy Lynn’s Long Halftime Walk

Ben Fountain

ハードカバー: 320ページ

出版社: Ecco

ISBN-10: 0060885599

ISBN-13: 978-0060885595

発売日: 2012/5/1

風刺小説/現代小説/文芸小説

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イラクで敵からの攻撃に応戦したところをフォックスニュースが偶然映像にとらえて放映したため、陸軍歩兵隊のBravo隊のメンバーは母国で一躍有名になる。

Bravo隊のメンバーは、(ブッシュ政権のイラク戦争のプロパガンダが目的と思われる)一時帰国をし、ホワイトハウスを訪問したり、選挙で重要な地域を訪問することになる。そのツアーに加わったのが、この事件の映画化を考えついたハリウッドのベテランプロデューサーAlbertであった。彼はBravo隊の軍曹David (Sergeant Dime)と交渉し、映画化が決まったら生き残りのメンバー8人それぞれに10万ドルを払うことを約束していた。

18歳のBilly Lynnは、交通事故で大怪我をした姉との婚約を一方的に破棄した冷酷な男の愛車を破壊し、懲役の代わりに陸軍への入隊を選んだのだった。闘いが好きで加わったわけではないBillyは、部隊で最も親しくしていたShroom(ニックネーム)が殺されたときの自動的なリアクションでSilver Star章を受けとり、ヒーローとして扱われ、映画化されたら主役扱いになるという現状にとまどっている。

「イラク戦争」という政治的に扱いが難しいサブジェクトのために、ハリウッドの映画産業はなかなか手を出さない。そこでAlbertは最後の手段としてアメリカンフットボールチーム「ダラス・カウボーイ」のオーナーに働きかける。

アメリカ合衆国では、感謝祭の日に必ず大きなアメリカンフットボールの試合があり、Bravo隊はダラス・カウボーイのオーナーから「ヒーロー」として試合に招待される。Billyはそこで戦争だけでなく、アメリカそのものの皮肉なカラクリを実感する。

 

●ここが魅力!

「今さらイラク戦争の風刺小説?」と思われるかもしれませんが、今だからこそ多くのアメリカ人が冷静に自分たちを見つめることができるのではないかと思うのです。

また、それを可能にしてくれる、非常に優れた小説です。

本書の主人公のBilly Lynnは、テキサスの田舎の典型的な労働者階級で育った教養に欠ける若者なのですが、観察力も洞察力もある非常にまともな人間です。イラクで敵の攻撃を受け、最も親しくしていた仲間を殺されて反射的に敵を殺した結果「ヒーロー」として扱われることへの彼の違和感は、各地を訪問して人々と会ううちに強まってきます。

そして、それが最高潮に達するのが、感謝祭のアメリカンフットボールの試合でのことです。

軍人を「ヒーロー」と讃えるくせに、実際には教養のない使い捨ての道具程度にしか思っていない右翼の金持ちたちや、有名人としてもみくちゃにするけれども一方で軽視している一般人たちの態度と、Bravo隊のメンバーの対応が、実にリアルに描かれています。

アメリカンフットボールというアメリカでしかあり得ない巨大なスポーツ産業の内情にも苦笑を覚えずにはいられません。

同時テロ以降のアメリカ合衆国の愚かさが、皮肉な笑いを含めてたっぷりと語られています。この小説が優れているのは、その皮肉さの表現が実に巧みなことです。

読みこなすのは容易ではない本ですが、チャレンジする価値はある小説です。

 

●読みやすさ 難しい

スラングばかりの軍人同士の会話は理解しにくいと思います。単語の意味が分かっても、文化、風習、歴史といった背景が理解できなければ、どこが可笑しいのか理解できないでしょう。

また、プロット中心の小説ではなく、ニュアンスが重要なので、それも難しいと思います。

時事に興味がある文芸小説ファンには非常におすすめです。

なんらかの賞を取るような予感がします。

 

●おすすめの年齢層

FやSで始まる罵り言葉は多く、性的なシーンもわずかにありますが、特に露骨ではありません。ただし、高校生くらいからでないと内容が理解できないし、面白くないと思います。

政治に興味がある高校生は、かえって一般の大人よりも好きになるかもしれません。

 

 

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