記憶について、わかっていること、わかっていないこと。Pieces of Light

Charles Fernyhough
ハードカバー: 320ページ
出版社: Harper (2013/3/19)
ISBN-10: 0062237896
ISBN-13: 978-0062237897
発売日: 2013/3/19(米国)
ノンフィクション/エッセイ/脳科学、心理学/記憶

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とある味や音楽が鮮明な記憶を呼び起こすことがある。
というと、必ずと言ってよいほど人はマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」の紅茶に浸したマドレーヌのエピソードを口にする。

本書『Pieces of Light』でもプルーストのマドレーヌが出て来る。
プルーストの語り手のように、五感への刺激はフラッシュバルブ記憶(「写真のフラッシュをたいたときのように」鮮明な記憶)を喚起することが多い。
これは、同時多発テロ事件などのように重大な事件や、結婚式のように個人的に重要な出来事でよく起こる記憶である。
強い感情を伴う鮮明な記憶について、私たちは「これほど強い感情を呼び起こすのだから、本当にあったことに違いない」と思う。
だが、記憶とはそんなに信用できるものではないのである。


私には幼い頃の鮮明な記憶がある。
当時新しくわが家にやってきたシンガーのミシンが物珍しくて、姉と妹との3人で玩具のように触っていたときのことである。
私がミシン針の下にあるギザギザの部分を触っているときに、姉が輪の部分を回してしまい、私の人差し指を針が貫通してしまったのである。
痛みとショックで脳貧血を起こして倒れそうになったのだが、指がミシンに釘付けになっているので倒れることも、地面に座ることもできない(まだ子どもだから背が低い)。姉が輪を回してようやく卒倒することができたのである。

この思い出話を3人でしているとき、妹が抗議した。
「ミシン針が貫通したのは、私の人差し指だよ!」
私は心底驚いた。だって、あの気を失いそうになる感覚は今でも鮮明に思い出せるのだ。
姉は「輪を回したのは私だという記憶はあるが、針が貫通したのが誰の指だったのかは思い出せない」と言う。
私と妹のどちらかは、目撃者として共感した痛みとショックを自分のこととして記憶しているのだ。どちらの記憶も強い感情を伴う鮮明なものだが、どちらかは偽りの記憶なのだ。

臨床心理学者であり、科学についての著作が多いFernyhoughは、新作『Pieces of Light』の中で、私たち姉妹のような体験も紹介し、現在科学的に判明している「記憶」について広く語っている。
例えば、ウィルス感染の後遺症で記憶を失ってしまった看護師Clairや、交通事故の心的トラウマで日常生活に支障をきたしているトラック運転手Colinの話など、興味深い事例も多く、それぞれは面白かった。

しかし、読後に振り返ると、本書から新たに何を学んだのかはっきりしないのである。

オリバー・サックス博士の著作のようになれそうで、なりきれていない。

その理由は、事例をうまく使いこなせていないことと、全体的にまとまりが悪いことがある。「ここから話が深まってゆくのかな?」と思っていると、深まらずに別のところに行ってしまうのだ。犯人探しのヒントは沢山あって面白いのだが、読み終わってから「犯人は誰だったのだろう」と首を傾げるミステリー短編集のような感じである。読者があんまり頭が良くないことを考慮して、整理整頓してもらいたかったと切実に思う。

せっかく面白いテーマを扱っているのに、印象が薄い本になってしまったのが残念である。

●読みやすさ やや難しい

文章を解釈する必要がないノンフィクションのエッセイなので、文法に関しては日本人にとって文芸小説よりも読みやすいと思います。
けれども、専門用語が多いので、その点では難しく感じるでしょう。
退屈する部分もあるので、その点では読み進めにくく、総合的に「やや難しい」としました。

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