「がん」との闘いの歴史がこの1冊で分かる、『The Emperor of All Maladies』

著者:Sidhartha Mukherjee

ペーパーバック: 608ページ

出版社: Scribner

ISBN-10: 1439170916

オリジナル発売日:2010年11月

難易度:中級レベル(高校英語をマスターしたレベル)

適正年齢:PG15(高校生以上)

ジャンル:ノンフィクション

キーワード:医療(がん)、歴史

賞:ピューリッツアー賞、全米批評家協会賞(National Book Critics Circle Awards)最終候補など多数

 



日本でも「がん」について書かれた書物は沢山あるが、アメリカの医学専門書を翻訳した経験がある私からみると、あまりにも偏った情報、情報不足が目立つ。


「がん」はひとつの病気ではない。それぞれに発生の要因も、振る舞いも異なる。そういった非常に複雑な疾患なのだから、1時間程度の読書で理解できる筈がない。そんな薄っぺらな本を読んで分かったつもりになって、検診や治療の是非を決めるのは危険なのではないだろうか?本当に分かりたければ、多少難しくても、ちゃんとした本を読む努力はするべきではないか?

その「ちゃんとした本」はどこにあるのか?

いろいろあるが、現時点で1冊だけおすすめするとしたら、The Emperor of All Maladiesである。

著者のMukherjeeは、インドのデリー出身で、スタンフォード大学とオックスフォード大学で学び、その後ハーバード大学メディカルスクールで学び、
がん治療では最も権威があるダナ・ファーバーがん研究所とマサチューセッツ総合病院で腫瘍内科学の専門研修を行った。現在は、コロンビア大学メディカルス
クールの准教授であり、臨床と研究の両方を行っている。

本書は、紀元前から存在した「がん」を克服するための人類の戦いの歴史を記したノンフィクションで、外科手術中心の時代から抗がん剤の時代への変遷、原因究明の試行錯誤などが、まんべんなく語られている。副題に"A Biography of Cancer(がんの伝記)"とあるが、がんと、病と闘ってきた患者や医師に対する著者の視点は、伝記作家のように公平かつ慈愛に満ちている。

小児の白血病のように画期的な進歩を遂げた「がん」もあるが、多くの努力にも関わらず生存率が以前とほとんど変わらない類いの「がん」もある。驚異的な治療だと信じられていたものが、患者を苦しめるだけに終わったこともある。著者は、そういった多くの挫折についても、隠すことなく語っている

 

3年前に発売された本書を今ご紹介することにしたのは、コロンビア大学で脳科学を専攻している私の娘がこの夏、偶然著者Mukherjeeの部署でインターンをしたからである。

それを知らなかった私は、娘から「今日、Dr. Mukherjeeのバイオプシーの手伝いをしたよ!」という興奮まじりの電話を受け取って「え〜っ、あの本の著者の?きゃーっ!」とミーハーな反応をしてしまった。この本は、脳科学ファンだった娘が将来腫瘍内科学を学ぶことを考慮するきっかけになった重要な本でもある。『洋書ベスト500』でご紹介したときに紙面の都合であまり詳しく書けなかったので、ここでご紹介することにした。

もうひとつの理由は、邦訳版『病の皇帝「がん」に挑む ― 人類4000年の苦闘
』がつい先日発売になったからである。

専門用語が多いものの文章そのものは日本で英語を学んだ人には読みやすい本である。けれども、「英語でこの分厚さではたまらない」という人は、ぜひ邦訳版で読んでいただきたい。

本書を読むと、現時点で科学的に「正しい」とされていることが、将来否定される可能性が想像できるようになる。だが、同時に、試行錯誤によって「がん」に対する我々の態度や、患者と医師の関係が大幅に改善したことも気づかせてくれる。

もうひとつ本書が教えてくれるのは、「ものごとは、外部の人が想像するより、ずっと複雑だ」ということである。

 

 

 

 

 

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