現在もっともエキサイティングなYAファンタジー『The Dream Thieves(The Raven Circle #2)』

著者:Maggie Stiefvater

ハードカバー: 439ページ

出版社: Scholastic Press

ISBN-10: 0545424941

発売日: 2013/9/17

適正年齢:PG12(中学生以上、ただし、バイオレンスあり)

難易度:上級レベル(英語ネイティブの普通レベル)

ジャンル:ファンタジー/ヤングアダルト(YA)/文芸小説

キーワード:The Raven Circle #2/英雄伝説(Owain Glendower)/レイライン/霊能力/冒険/ロマンス

これを読まずして年は越せないで賞候補(渡辺推薦)


 

バージニア州にあるHenrietta(架空の町)は、古代の遺跡が直線に並ぶレイライン上にあり、大地のパワフルなエネルギーが集まっている。そこでは、ありえないような現象が、あたかも自然なことのように起こる。


前回のThe Raven Boysで、霊能力者の母に育てられた少女Blueは、寄宿制名門私立男子高校の学生4人(Gansey, Adam, Ronan, Noah)と出会い、レイラインのどこかに眠っているはずのウェールズの英雄Owain Glendower探しに加わることになる。Glendowerを見つけるためにわざわざ他州からこの高校に入ったリーダー格のGanseyは、BlueがSt. Mark's Eveに目撃した生霊であり、母や同居している霊能力者たちによると、彼は1年以内に死ぬことになっていた。だが、もちろんBlueはそれを伝えることはできない。

4人の少年とBlueは特別な友情で結びついていたが、その友情は脆弱なものでもあった。

家庭内暴力の犠牲者で生活費にも困っている奨学生のAdamは裕福な同級生たちに劣等感を抱いてきたが、そのなかでも特に裕福で親が政治的な影響力を持つGanseyからの友情を「施し」のように感じていた。誰からも愛されたことがないAdamはBlueにそれを求めるが、Adamの要求に応えられない理由がBlueにはあった。また、何者かに殺害された父の不思議な能力を受け継いだRonanは、それをどう扱ってよいのかわからず精神的に破綻しようとしていた。

Ronanが父から受け継いだ不思議な能力は、夢の中から現実にモノを取り出すことができるというものだった。彼がペットにしているRaven(大鴉)のChainsawは、実は夢から現れたものである。だが、Ronanには夢と夢から取り出せるモノをコントロールする力はなく、悪夢に現れる獰猛な怪物が現実世界に逃げ出して、彼を殺そうとするのだった。

Ronanの敵は悪夢の怪物だけではない。警察も手を出さない高校の最大のワルKavinskyの執拗なターゲットになっているのだ。

いっぽう、レイラインのエネルギーを嗅ぎつけた怪しい者たちがHenriettaに姿を現すようになっており、その一人がGrey Manだった。Grey ManとBlueたちの世界が絡み合い、それぞれに変貌する。

Twilightシリーズ、The Hunger Games三部作やDivergent三部作などの大ヒットで、YAファンタジーがブームになっている。売れ筋なので多くのYAファンタジーが出版されるようになっているのだが、Twilightが売れた後は吸血鬼ものばかり、The Hunger Gamesが売れた後はディストピアものばかりで、YAファンタジー好きの私でも最近はうんざりしている。

ヒット作の類似品があふれるYAファンタジーの中で、The Raven Circleは異色の存在である。テーマが異なるだけでなく、幾層にも積み重ねられた世界観、登場人物それぞれの複雑な性格など、YA(ヤングアダルト)というティーン向けのジャンルに入れておくのがもったいないほど優れたファンタジーなのである。文章力もほかのYA作家とは格が違う。「なんと素晴らしい表現なのか!」と感動することが何度もある。

女性作家なのに、少年たちの複雑な心理、脆弱な友情、根底にある忠誠心、コントロールできない衝動、競争心、残虐さなどが見事に描かれていることにも感心する。ふだんバイオレンスを好まない私だが、Stiefvaterの暴力と狂気に満ちた破壊のシーンに含まれた美観に心動かされてしまった。

YAファンタジーは好きな分野だからよく読むのだが、この数年間読んだ中で最も優れているのがこのThe Raven Circleである。結末がどうなるのか知りたいが、読み終えてしまいたくない複雑な心境で次を待っている(最初は三部作という情報だったが、四部作だという情報もあるので、当分楽しめるかもしれない)。

 

 

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