大都市の孤児を汽車に乗せて里親を探したアメリカの歴史を伝える小説『Orphan Train』

著者:Christina Baker Kline

ペーパーバック: 304ページ

出版社: William Morrow Paperbacks

ISBN-10: 0061950726

発売日: 2013/4/2

適正年齢:PG15(高校生以上)、露骨ではないが性的なシーンあり。

難易度:上級レベル(ネイティブの普通レベル)、シンプルな文章でスムーズに読めるが、ボキャブラリはある程度必要。

ジャンル:歴史小説(20世紀前半のアメリカ合衆国)

キーワード:Orphan Train, 孤児、大恐慌、人種差別、性差別、心あたたまる本

2013年「これを読まずして年は越せないで賞」候補作(春巻きさん推薦)


 

アメリカ東北部のメイン州に住む女子高生のMollyは、面倒をみてくれる親が不在のために何年もfoster homes(里親システムに登録している家庭)の世話になっている。里子への同情や愛情ではなく、小遣い稼ぎなどの動機で里親になる者も多く、Mollyはそういった家庭で摩擦を起こしてfoster homeを転々としてきた。

図書館で古い本を盗んだ罪で少年院に送られそうになったMollyは、思いやりあるボーイフレンドのはからいで代わりにコミュニティサービスをすることになる。それは91歳の独居未亡人Vivianの屋根裏部屋の整理を手伝う作業だった。最初は面倒くさがっていたMollyだが、Vivianが屋根裏にためこんだ物品にまつわる過去の出来事を聞くにつれ、二人は親しくなってゆく。


Vivianの子供時代の名前はNiamh(アイリッシュの名前で、通常「ニーヴ」と発音する)だった。幼いときに家族と一緒にアイルランドからニューヨーク市に移住したのだが、住んでいたアパートの火事で家族を失い、多くの孤児たちと一緒に汽車で中西部に連れてゆかれた。幼い子は子供ができない夫婦の子代わりとして、体格が良い男の子は農家の労働力として、次々と引き取り手がみつかったが、アイルランド移民であることが明らかな赤毛の少女を求める者はいなかった。ようやく引取先がみつかったが、その夫婦はNiamhの名前をアメリカ人らしいものに変え、子供としてではなくタダの労働力としてこき使うだけだった。そこに大恐慌が起こり、ビジネスを失った夫婦は口減らしのためにNiamhを追い出す。次の家庭で、Niamhはさらに過酷な暮らしを強いられる。彼女の唯一の心の支えは『赤毛のアン』の本をくれた若い女性教師だった。

 

「orphan train」は、1853年から1929年までアメリカ合衆国で実際に運営された福祉プログラムである。

ニューヨークやボストンなどの人口が多く混雑した都市の孤児を汽車に乗せてアメリカ全域を旅し、停車地域で子供を求める家庭とマッチングをするというシステムだった。ふたつの福祉施設が担当していたが、本書に登場するのは最初に始めたChildren's Aid Societyである。

nprのインタビューによると、作者は「赤毛の子供はorphan Trainに乗せてもらえなかった」という事実を新聞記事で知ったらしい。思春期の少女も、夫が誘惑にかられることを案じる妻の反対で里親を見つけるのは難しかったようだ。本書でNiamhや他の孤児が体験するひどい扱いは、実際に起こったことを反映しているのである。

9歳でorphan trainに乗ったNiamhが裕福な91歳の老女Vivianになったいきさつはとても興味深く、一度読み始めたら最後まで一気に読んでしまいたくなる。

唯一残念だったのは、最後がバタバタと小奇麗にまとまってしまったところである。誰かが「あと●●ページで終えてくださいね!」と要求したのではないかと疑いたくなるほどだ。

そういう不満はあるものの、とても興味深く、読み応えがあり、読後の満足感もあるおすすめの小説である。

 

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