『モンテ・クリスト伯』のモデルになった大デュマの父親の実像に迫る 『The Black Count』

著者:Tom Reiss
ペーパーバック: 432ページ
出版社: Broadway Books; Reprint版
ISBN-10: 0307382478
発売日: 2012/9/18
適正年齢:PG12(中学生以上)
難易度:上級レベル(しかし、ストレートな英語なので、日本人にはかえって読みやすいだろう)
ジャンル:伝記/ノンフィクション
キーワード:歴史(ナポレオン戦争時代)、アレクサンドル・デュマ、モンテ・クリスト伯
2013年ピューリッツアー賞受賞作、2013年「これを読まずして年は越せないで賞」候補

『モンテ・クリスト伯』と『三銃士』の作者アレクサンドル・デュマ(大デュマ)とその息子で『椿姫』の作者アレクサンドル・デュマ(小デュマ)は、日本人に馴染み深いフランスの作家である。だが、大デュマの父親のトマ=アレクサンドル・デュマ(Thomas-Alexandre Dumas)将軍について知る人はあまりいない。

デュマ将軍は白人の貴族と黒人の奴隷の間に生まれた混血児で、彼もアレクサンドル・デュマ(Alexandre
Dumas)と呼ばれていた。父親のAlexandre Antoine Davy de la
PailleterieはMarquess(侯爵)の放蕩息子で、母国を離れて現在のハイチであるSaint-Domingueに渡り、金儲けを試みたのだ。


de la Pailleterieは、農場を経営し、美貌で知られる奴隷のMarie-Cessetteを多額で買い取って4人の子どもを作ったのだが、結局金儲けには失敗して侯爵のタイトルを継ぐためにフランスに戻ることにする。そして、あろうことか、帰国前に母と子の全員を奴隷として売り飛ばしてしまうのである。Alexandreも奴隷として売られたのだが、父親は最もお気に入りだったこの息子をフランスで即座に買い戻した。

面白いのは、いったん奴隷として売った息子に、侯爵が文武とも最高の教育を与えたことである。また、当時のフランスは歴史の中でも非常にユニークな時代であり、黒人との混血も同等の機会が与えられていたというのも興味深い史実だ。

ダンス、音楽、剣術で並外れた才能を発揮し、最先端のファッションに身をつつんだMulatto(混血)のAlexandreは、フランスの社交界では憧れの的だったという。そして、貴族の息子のコネを使わず一兵卒として従軍した後、めざましい活躍とカリスマ性でGeneral(将軍)の地位にまで昇進したのである。超人的な腕力だけでなく、戦略にも優れており、男らしい真っ直ぐな性格で兵士たちを魅了したというAlexandreに心惹かれずにはいられない。

だが、体格も性格も真反対のナポレオンとは最初から相性が良くなかったようだ。ナポレオンはアレクサンドルの手柄を盗んだだけでなく、エジプト遠征で結果的に目障りな存在をこの世から抹殺することに成功するのだ。

綿密な調査に基づいて書かれたこのノンフィクションは、息子の大デュマが書いた長編小説のように読み応えがある。また、戦争のときにはハイチ出身の黒人や混血を利用しておきながら、自分が政権を握ると人種差別政策を徹底したナポレオンに対して新たな怒りも覚える。

日本ではデュマ将軍を主人公にした『黒い悪魔 (文春文庫)
』という歴史小説が出ているようだが、本書はフィクションではなく、あくまで資料を元にしたノンフィクションである。ノンフィクションにも作者の解釈が反映するので「事実」とはいえないが、歴史的根拠から逸脱できないゆえ事実に近いと言えるだろう。私は文春文庫のほうを読んでいないので不明だが、読んだ人は、読み比べてみると「歴史」にはいろいろな側面があると分かって面白いのではないかと思う。

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