倫理のグレーゾーンを語り続けるJodi Picoultが今回挑んだのは、ホロコーストのテーマ『The Storyteller』

著者:Jodi Picoult

ペーパーバック: 480ページ

出版社: Atria/Emily Bestler Books

ISBN-10: 1439102775

発売日: 2013/2/26(オリジナル)、ペーパーバック版は2013/11/05発売

適正年齢:PG15+(性的なシーンや暴力シーンはあるが、高校生にも読んでもらいたいテーマ)

難易度:中級レベル(ときおり難解な表現は出てくるだろうが、入り込みやすく、理解しやすい文章)

ジャンル:現代小説(現代のアメリカ東海岸)/歴史小説(第二次世界大戦前後のポーランドとドイツ)

キーワード:ホロコースト、贖罪、善と悪、倫理

2013年これを読まずして年は越せないで賞候補作(渡辺推薦)


 

25歳のSage Singerは、自分が引き起こした自動車事故で母を失い、顔と心に消えることのない傷跡を残している。元修道女が経営するパン屋でのパン職人の仕事は、夜中にひとりでやるものであり、代々パン職人で孤独を好むSageにはピッタリの仕事だった。既婚者の恋人Adamとの理想的とはいえない関係も、心身の傷が影響しているのだった。

友達と呼べる存在がまったくなかったSageが初めてそれらしい心の繋がりを持ったのは、元数学教師の95歳の老人Josef Weberだった。参加者が自分の悲嘆を打ち明けあうグリーフカウンセリングでのことだったが、なぜかJosefは他人の話を聞くだけで、自分がその会に加わっている理由を具体的に語らないのであった。

だが、この静かな老人がSageに求めたのは、友情以上のものだった。


Josefはかつてナチスドイツの親衛隊(SS)将校で多くのユダヤ人を殺害した。死にたくても死ぬことができないJosefは、この町にはあまりいないユダヤ人であるSageに死ぬのを手伝って欲しい(つまり、「殺してくれ」)と懇願するのである。

Sageの祖母Mincaはユダヤ系ポーランド人でホロコーストのサバイバーだが、Sageは無宗教であり、自分を「ユダヤ人」とは感じていない。それに、Josefが犯した罪を許せるのは彼が殺した者だけだ。だが、Josefは執拗にSageに救いを求める。

Sageは唯一友達に近い存在であるパン屋の経営者に相談するが、町の誰もが尊敬するJosefが元ナチス親衛隊だとはまったく信じない。かえってSageの正気を疑うようになる。そこでSageはこういう問題に対応する機関を探し、あちこちをたらい回しされた後、ようやく司法省の担当者Leo Steinに辿り着いた。だが、多くのクレイジーな通報を受け取るLeoもすぐには信用しない。Josefがナチス親衛隊だったという確証を得るためにも、SageはJosefとの交友を続けなければならない。

 

 

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私が訪問した日のアウシュヴィッツ

Josefの告白、Sageの祖母Mincaが戦時中に書き続けたポーランドの吸血鬼の物語、そしてMincaが家族に打ち明けるのを拒否してきたホロコーストでの体験、現在のSageとJosef, Leo, Adamとの関係が交互に語られ、それぞれに繋がってゆく濃厚な小説である。

 

特に、ホロコーストの体験については、アウシュヴィッツを訪れたときのことを思い出し、胸が重くなった。

JosefとSageそれぞれの選択について読者は多くの疑問を抱くだろう。「私なら、そんなことはしない」と思うかもしれない。だが、そういうことを考えさせてくれるところにこの小説の価値があり、Jodi Picoultらしい作品だと言える。

長いが、読み始めたら止まらない作品。

アウシュヴィッツに関する回想記の代表作については、こちらを参考にしてほしい。

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott についてhttp://youshofanclub.comエッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者。兵庫県生まれ。 助産師としてキャリアをスタート。日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、 1995年よりアメリカに移住。 2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に 新潮社刊)を発表。他の著書に『ゆるく、自由に、そして有意義に』(朝日出版社)、 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)など。 最新刊『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社) ニューズウィーク日本版とケイクスで連載。 翻訳には、糸井重里氏監修の訳書『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)など。 連載 Cakes(ケイクス)|ニューズウィーク 日本版 洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者 Author, translator, and English book reviewer for Japan Market. Author of "500 best books written in English" for the Japanese market. English book reviewer for Newsweek Japan. Amazon.co.jp Top 500 reviewer.

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