アメリカ政府だけでなく、アメリカという国が理解できる本 『Duty』

著者:Robert M. Gates

ハードカバー: 640ページ

出版社: Knopf

ISBN-10: 0307959473

発売日: 2014/1/14

適正年齢:PG13(中学生以上、軽い罵り言葉あり)

難易度:中級レベル(日本で英語を学んだ人には、小説よりかえって分かりやすいだろう)

ジャンル:回想録

キーワード:アメリカ国防長官、イラク戦争、アフガニスタン戦争、外交、国際政治、ホワイトハウス

 

ネットの記事やツイッターを眺めていると、どこで仕入れてきたのか知らないが、国際政治や日米関係について非常に現実離れした見解を持っている人が多い。見解というよりも、妄想に近いものがけっこうある。

個人が勝手に思い込んでいるだけなら構わないが、その妄想を信じる人がけっこういて、ソーシャルメディアなどで広めるからさらにたちが悪い。

たとえば、Googleに「日本はアメリカ」と打ち込むと、このような結果が出てくる。

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つまり、ネット利用者に限っては、こう思っている人が多いということだ。


では次に「アメリカは日本」と打ち込んでみよう。

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せっかくのファンタジーを打ち崩してしまうようで申し訳ないが、アメリカは現在の日本のことなんか恐れていない。それどころか、念頭にもない。たいていの時間は、その存在を忘れている。

どっちかというと、いつのまにか魅力がなくなってしまったので電話もメールもしなくなった恋人のようなもので、日本だけが「気をひこうとして、●●なんかと付き合ってる」とか「嫉妬して意地悪しているにちがいない」と一方的に騒いでいる感じだ。

外から見ていると、ちょっと恥ずかしい。そして、悲しい。

だって、昔は本当に大切な存在だったんだから。

あの時代だって、アメリカは日本を属国とか忠犬だとは思っていなかった。単に、「物分かりがよくて、煩くない友だち」あるいは、「優等生で、親を困らせない長男」みたいな感じだったと思う。他の兄弟が問題行動を起こしたりしている間、放っておいても大丈夫な存在であり、できれば(アジアの)兄弟が喧嘩をしているときに仲裁に入ってくれる頼れる存在にいつかなって欲しかったと思うのだ。アメリカという国は、アメリカ人のように、単純に「付き合いやすくて、いざとなったら頼れる存在」が好きなのである。そうでない国は「めんどくせー奴だな」という感じに捉えられる。

元国防長官ロバート・ゲイツの回想録『Duty』を読むと、そのあたりの感覚が分かるかもしれない。

JapanあるいはJapaneseの記載は、640ページの分厚い本の中でたったの13箇所である。第二次世界大戦時の例え、韓国の当時の大統領である盧武鉉(ノ・ムヒョン, Roh Moo-hyun)が「アジアでの最大の脅威はアメリカと日本だ」と言ったという部分、中国が領土問題でアグレッシブになってきているという部分などで言及されているだけであり、日本そのものについて語った部分は「ゼロ」である。

ちなみに、面倒な大国の中国やロシアについても正直な意見が書かれているし、アメリカにとって取り扱いが難しいが重要な同盟国であるイスラエルについても多くの紙面が割かれている。だから故意に日本を無視しているわけではない。常に多くの問題を扱っているアメリカ合衆国にとって、日本のことを考える時間なんかないのだ。

 

ゲイツは特定の政党に登録していないが、政治的には中道右よりで、共和党と民主党、合計8人の大統領に仕えた。ジョージ・H.W.ブッシュ大統領(41代)の元でCIA長官を務め、テキサスA&M大学大学長として働いているときにジョージ・W・ブッシュ大統領(43代)から請われて国防長官の役割を引き受けた。彼が就任したときには、すでにアフガニスタン戦争とイラク戦争の2つの戦争が始まっており、非常に厳しい状況だったのである。

通常は、政権交代と同時に人事がすっかり入れ替わる。だが、オバマ大統領は、継続性を重視してゲイツに現職にとどまるように要請した。しかも彼の元で働く者たちもそのままである。それは前代未聞の出来事だったらしい。

ゲイツのメモワールで最も鮮明に浮かび上がってくるのが、アメリカ人が重視する「Duty(国に対して国民が果たすべき義務)」である。日本からはアメリカの「愛国心」が想像できないだろうが、ゲイツがテキサスA&M大学の学長という大好きな仕事を辞めて、苦しいとわかっている国務長官の仕事を引き受けることにしたのも、この愛国心と国民としての義務なのである。

また、軍が好戦的だという先入観が間違っていることも、Gatesは何度も強調する。人道的な介入や限定的な攻撃で短期の戦闘を予想しても、必ず予期しないことが起きて長引くのが戦争である。だから「母国が攻撃されたとき以外は、戦争を安易に開始するべきではない」と反対の立場にまわるのが、国防長官のゲイツだった。

外交の舞台裏だけでなく、ホワイトハウスと軍の舞台裏や人間関係についても興味深い記載がある。

彼はオバマ大統領に対してある種の尊敬の念は抱いているが、性格的には合わなかったことが分かる。軍に対して常に懐疑的であり、経験あるプロよりも実体験していない若いアドバイザーの意見を重視すること、常に選挙モードであること、そしてマイクロマネジメント(細かいところまで監督、干渉)することが、軍やCIAのやり方に慣れているゲイツにとっては、非常に気に触ったようである。相当押さえた書き方だが、これまで仕えた8人の大統領の中で、もっともやりにくかったことは確かだ。

副大統領のバイデンにも手厳しい。個人的には良い人物だが、邪魔になるアドバイスばかりしているようである。

それぞれの人物について良い所と悪い所の両方が率直に語られているが、全体を通じて、もっとも好意的に語られているのが、ヒラリー・クリントンである。

ゲイツは、出会うまでは悪い印象を抱いていたヒラリーについて、こう書いている。

I had not known her personally, and what views I had were shaped almost entirely by what I had read in the newspapers and seen on television. I quickly learned I had been badly misinformed. I found her smart, idealistic but pragmatic, tough-minded, indefatigable, funny, a very valuable colleague, and a superb representative of the United States all over the world. I promised myself I would try never again to form a strong opinion about someone I did not know

それまで彼女と知り合ったことはなく、彼女に対する私の見解は、ほぼ完全に新聞やテレビから得た印象で作られたものだった。だが、彼女と知り合ってすぐにそれが非常に間違ったものだったことを知った。彼女は頭が良くて、理想主義者でありながらも実践主義であり、意志が強く、根気よく、ユーモアがあり、私にとって貴重な同僚であり、世界中でアメリカ合衆国を代表してくれる素晴らしい国務長官だと思った。会ったことがない人物について強い個人的見解を持つことは、今後は二度としないでおこうと自分に誓った。

素晴らしい褒め言葉ではないか。

ヒラリー・クリントンは2016年の大統領選挙に出馬するかどうかまだ決めていないようだが、ゲイツの『Duty』は、非常に大きな「応援演説」になるだろう。

朴訥でときおり率直過ぎるほど率直だが、それゆえに著者の心情が分かりやすい。また、アメリカ人が尊敬する人格や国がどういうものかもよく分かる。政治の舞台裏についても、メディアが伝えない部分が面白いので、ぜひ読んでほしい。

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