現在のアメリカ合衆国が各国をどう捉えているのかがわかる、ヒラリー・クリントンの自伝 『Hard Choices』

著者:Hillary Rodham Clinton

ハードカバー: 688ページ

出版社: Simon & Schuster

ISBN-10: 1476751447

発売日: 2014/6/10

適正年齢:PG12(特に制限はないが、小学生には理解しにくいだろう)

難易度:上級(文章はシンプルだが、地域や政治家などの固有名詞が多く、ページ数も多いので読み切りにくい)

ジャンル:自伝(アメリカ合衆国の国務長官としての体験を綴ったもの)/外交録/時事問題

キーワード:外交、世界情勢、国際紛争、時事問題

 

前アメリカ国務長官ヒラリー・クリントンが国務長官時代を振り返った自伝で、アメリカでは一般的に2016年の大統領選挙に向けての準備と捉えられています。詳しくは、ニューズウィーク誌での冷泉彰彦氏のコラムをお読みください。


以前Game Changeという本をご紹介しましたが、オバマ候補とヒラリー・クリントン候補が戦った2008年の大統領選挙の予備選は熾烈なものでした。Game Changeの終わりに、民主党を二つに引き裂いた血みどろの予備選が終わったときには視線を合わせることもないほど嫌いだったヒラリーにオバマが国務長官になってくれるよう懇願する場面があります。そこで、ヒラリーが国のために引き受ける所にぐっときたのですが、本書Hard Choicesも、その場面から始まります。

互いにわだかまりを抱いていたヒラリーとバラクの二人がダイアン・ファインスタイン上院議員の仲介でワインを片手に向かいあうこの場面は、Hard Choicesの中で最も本音が露呈している部分といえるでしょう。残念なことに、それ以降は、奥歯に物が挟まったような(ときに優等生すぎる)表現になってしまいます。

ですが、書物としてのHard Choicesの最大の欠陥は、ヒラリーの長所、つまり政治家としての賢明さと外交手腕でもあります。つまり、諸外国のリーダーや国内の政治家に対するフラストレーションを書いても、国家間の緊張を高めたり、これからの外交をやりにくくするほどの本音は言わないのです。国内外の影響を考えつつ書いているのがよく分かります。

ゆえに、読者はヒラリーの本音を推察するために「行間を読む」癖を身につけなければなりません。たとえば、プライドが高くて身勝手な中国を牽制するために、日本と韓国が(争わずに)手を組んで米国の「仲間」でいてもらいたいという本音は、記述が少ないにもかかわらず、あちこちで感じます。ヒラリーが国務長官として最初に訪問したのも日本ですし、最後のほうに安部首相へのリップサービスもあるので、日本を重視していることは確かです。

本書には日本についての記述があまりありません。それは、軽視されているからではなく、「成熟している友好国であり、問題がない」とみなされているからです。多くのページを割いている中国との関係のほうが、アメリカにとって難しく、悩ましいというのは、文面から伝わってきます。

しかし、ヒラリーが繰り返し「個人的な関係の重要さ」を語っているのに、日本の政治家が登場しないのは寂しいものです。オバマ大統領と安倍首相の仲がうまくいっていないのは、安倍首相が相手の信念や行動パターンを読めていないからでしょう。日本の空気だけでなく、海外のリーダーの心を読む術も身につけて欲しいとしみじみ思います。

まずアジアから始まる本書は、ヨーロッパ、ロシア、ラテンアメリカ、アフリカ、中東と進んでいき、それぞれの国や紛争でのアメリカ合衆国の立場と裏舞台でのやりとりが書かれています。新聞で伝わったこととは異なる「真実」もあり、読み進めるうちに、アメリカという国が見えてくることでしょう。

ところで、700ページもある本書を読了するのはけっこう大変です。私は、家事や散歩のときにオーディオブックで聞きました。ヒラリーが最初の1章を読んでいるのも、お得感があります。「退屈で読み進められない」という人はぜひオーディオブックを試してみてください。

文章は簡単ですが、時事や政治に詳しくない方はわかりにくいかもしれません。

*アメリカのアマゾンでの評価が低いのは、政治的に右よりの人(特に男性)が読まずに★一つ評価を沢山与えているからです。このように政治が二極化しているのも、現在のアメリカ合衆国の姿なのです。

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