パラノイアになりがちな母の視点からスタートして予防接種の重要さに辿り着いた本 On Immunity

著者:Eula Biss
ハードカバー: 205ページ
出版社: Graywolf Pr
ISBN-10: 1555976891
発売日: 2014/9/30
適正年齡:PG12(どの年齡でも興味があれば読んで良い内容。理解できるようになるのは中学生以上)
難易度:中〜上級レベル(大学入試に出てきそうで読みやすい文章も多いが、文学的で難しい箇所もある)
ジャンル:ノンフィクション/医療ルポ/一般科学/歴史(医療)
キーワード:予防接種、免疫、天然痘、アンチ予防接種、ナチュラル志向、沈黙の春、代替医療


邦訳版が出ました!

 

 

日本で最近風疹が増えて問題化している

風疹の問題はは疾病にかかった本人だけではない。
表面上は症状が出ていない感染者が増えることで、妊婦に感染させる確率も増えるのが問題なのだ。妊娠初期に妊婦が感染すると赤ちゃんの目、耳、心臓に障害が出る「先天性風しん症候群」にかかる可能性がある。

日本の風疹だけではない。人類が克服したとみなされていた伝染性疾患が世界中でまた増え始めている。その大きな原因は、予防接種拒否だ。

しかも、学歴が高く、社会経済的に恵まれている層の女性に予防接種拒否をする人が多い。


拒否している人の意見を集めると、主に次のようなものになる。

●予防接種の副作用が危険だ

●予防接種なんかしなくても自然な免疫があれば病気にはならない

●ナチュラルが一番。人工のものはすべて身体によくない

●これらの病気は現実でそんなに問題になっていないのだから、大丈夫

●わが子の健康について母(たいていの場合は女性なので)が決めてどこが悪い? 他人に迷惑をかけているわけじゃない。

●インフルエンザの予防接種を受けたことはないけれど、インフルエンザになったことはない or 予防接種したけれどインフルエンザになった。だから受けない。

たとえば「予防接種は危険ではない:反対派の人への5つの回答」とか、横浜市衛生研究所の「チメロサールとワクチンについて」医学的な根拠を使ってこれらが間違った信念であることを語っている情報源はたくさんある。

だが、問題は間違った情報(既に医学的に否定されている論文など)を使って危険を警告する人のほうが説得力があるということだ。母親にとってわが子は数字のひとつではなく、「世界でかけがえのないたったひとり」なのだから。

医学的根拠だけを使って論理的に論破しても、「予防接種しないほうが危険なんだよ」と言ってもパラノイアに陥っている母親は耳を傾けてくれない。

また、「感染しても症状が出ない場合もあります。あなたの子どもがそうで、接種しないせいで、免疫不全の子どもに感染させて殺してしまう可能性があるんですよ? 接種しない人が増えれば増えるほど、接種できない人たちが感染して死ぬ可能性が高くなります。それでもいいんですか? 予防接種は社会全体のためにあるんですよ」と言っても「私の子どもを社会の犠牲にしろと言うのですか?」と反論されてしまうだろう。

これは、目に見えないテロリストに怯えて銃を買い込むアメリカ人の心境そのものだ。本当は銃を家庭に持ち込むほうがずっと、ずっと危険なのだけれど、パラノイアに陥った心を落ち着かせてくれるのは、身勝手で、しかも危険な選択のほうなのだ。

このパラノイアの心理をまず受け入れないかぎりは、予防接種の必要性を否定派に理解してもらうことは不可能だろう。

本書『On Immunity』の優れたところは、著者がふつうの(パラノイアを持った)母親として出発していたところである。

シカゴ在住のBissは、初めての子どもを妊娠したとき、やはり予防接種で迷った。
生後直後のB型肝炎のワクチン接種について小児科医に尋ねたところ「それはドラッグ中毒や娼婦の子どもを守るためのもの」だから不要だと言われ、そのまま納得して受けないことに決めたのだ。その言葉に含まれていた差別について疑問を持たなかったことをBissは後ほど後悔する。

出産時に大出血したBissは、輸血を受けることになり、突然自分自身がハイリスクの患者になったのである。それに、後で彼女が知ったのは、性交で感染すると思われているB型肝炎だが、どこでどうやって感染したのかわかっていないケースが多いことだ。つまり、誰だって気づかないところで感染する可能性があるのだ。

Bissは、不思議の国のアリスのように「予防接種」のテーマの穴に落ち、その中で「drink this」「eat this」という接種反対派と賛成派の意見を聴くたびに縮んだり、巨大になったりして迷い続ける。

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は世界を変えた素晴らしい本だったが、DDTには彼女が警告したような発がん性はないと現在では見られている。そして、このDDTの禁止のせいで、何百万人ものマラリア患者が死ぬことになった。

自然がすべて善で、化学物質がすべて悪ではない。どちらにも良いところと危険なところがある。それに、誤解されているが、「予防接種」ってすごく「自然」なものなのである。

予防接種がなぜ重要なのかを歴史や研究結果などから検証していく本だが、ひとりの母親として迷いや、思考の行程、グレーゾーンをきちんと書いていることに価値がある本である。

 

 

 

 

 

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