見えない光で私たちは繋がっている All the Light We Cannot See

著者:Anthony Doerr
ハードカバー: 544ページ
出版社: Scribner
ISBN-10: 1476746583
発売日: 2014/5/6
適正年齡:PG15(露骨な描写はないが、侵略兵士によるレイプを示唆するシーンがある)
難易度:最上級(時間と場所があちこちに飛ぶので混乱しやすい)
ジャンル:文芸小説/歴史小説(第二次世界大戦、フランス、ドイツ)
キーワード:Brittany(ブルターニュ)、Saint-Malo(サンマロ)、ラジオ、レジスタンス運動
2014年、National Book Awards(全米図書賞)最終候補作

 

第二次世界大戦が始まろうとしているヨーロッパで生まれたフランス人の少女とドイツ人の少年の物語。
Marie-Laureは、6歳のときに目の疾患で失明する。パリの国立自然史博物館で錠前師として働いている父親は、Marie-Laureが独り立ちできるよう、住んでいる地域のミニチュアを作ってそれを覚えさせる。

この美術館には、呪いがかかっている大きな青いダイヤモンド『Sea of Flames』が保管されているという噂があった。そのダイヤモンドを持つ者は不死になるが、周囲の者はすべて悪運に見舞われるというのだ。


ドイツのフランス侵略が進み、博物館はMarie-Laureの父親にある極秘の使命を与える。実は青いダイヤモンドは実存し、それを守るために博物館は3つの偽造品を作り、本物とあわせた4つのダイヤモンドを別々の職員に渡して遠くに送ったのである。4人のうち誰が本物のSea of Flamesを持っているかは知らされていない。

Marie-Laureは父と一緒に大叔父が住むブルターニュ地方のサンマロ(Saint-Malo)に逃げ、父は、ここでも娘のためにSaint-Maloの模型を作る。しかし、1940年にSaint-Maloはドイツに占領され、博物館からの招集で出かけた父はそれきり戻ってこない。

いっぽう、ドイツの孤児院で育ったWernerは、ラジオや配線が好きな利発な少年だったが、将来は炭鉱で働く選択しかなかった。けれども、ヒットラーのエリート寄宿学校に入学すれば工学を学ぶことができると聞き、妹の反対を押し切って難関の試験を受ける。しかし、心優しいWernerは、学校と戦争の実体に打ちのめされていく。

 

Marie-LaureとWernerが実際に出会うのは本書のずっと後のことだが、それまでに見えない糸というか電波(タイトルのニュアンスがここにもある)で二人の運命は繋がっている。本来であれば普通に生きることができたはずの人々は、戦争という特殊な状況で選択を迫られる。青いダイヤモンドは、究極の人間性への問いかけなのだ。

残酷な戦争での、切なく、やるせないストーリーだが、著者の美しい文章のおかげで不思議と読後感がいい。時間はかかるだろうが、「読んでよかった」と思うだろう。

ただし、時間と場所があちこちに飛ぶので、文芸小説を読み慣れていない読者には読みにくいかもしれない。

 

1 thought on “見えない光で私たちは繋がっている All the Light We Cannot See”

  1. 渡辺さんがお書きになっているとおり時間と場所があちこちに飛ぶので、中盤までは少しイライラしながら読みましたが、筋が見えて来るとすっかり物語に入り込みました。Werner と妹の Jutta が子どもの頃に夢中になったラジオ放送が実は・・・という話がいいですね。ダイヤモンド「Sea of Flames」の形成過程から物語現在までの長い歴史を簡潔に書いた1ページが印象に残っています。「切なくやるせないストーリーだけれど読後感がいい」という点で、Markus Zusak の『The Book Thief』を思い出しました。

Leave a Reply